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□11:優しい追憶
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白ひげ海賊団と大渦蜘蛛海賊団が合流した。
それはマルコが連絡してから1週間はかかっていた。
二人の隊長がまずモビーに戻り、続いて姿を現した1番隊隊長の無事な姿に地割れのような喚起の声が上がる。
だが当の本人は照れなのか、憮然とした表情で今去ったばかりの船の方に視線を向けた。
そうして少しだけ賑やかな集団が後ろからやってくるのをさらに目を細めて、それはまるで睨みつけるようにして見ているのをサッチが笑いを堪えるのに必死な表情で見ている。
そうして「やれやれ」とビスタが呟くと同時に姿が見えたスクアードに、白ひげ海賊団の男たちは息を呑んだ。
「歩けます! 自力で!!」
「おう、揺れるからな、諦めろ」
「そういう問題じゃありません!」
「荷物はちゃんと持ってンだろーなお前ら」
「当然ですぜ船長! まぁ嬢ちゃんの荷物置いといていつでもこっちに戻ってきてもらってもいいんですがねえ」
「だとよ、フヨウ」
「ですから!」
「おいスクアード、さっさとこっちに来てフヨウをおろせよい!」
「てめぇが嬢ちゃん抱いてのぼりゃあはやかったんじゃねえか不死鳥!」
「しょうがねえだろい、サッチとビスタが早く顔見せてやれってうるさかったんだよい!!」
天下の白ひげの1番隊隊長と、白ひげが信頼する海賊の船長の間に挟まれて縮こまるのはいたって普通の女なのだ。
その後ろのいかつい男たちまでもが彼女の世話をしたがっている様子はあまりにも奇妙な雰囲気で、誰もが呆気に取られていた。
「ああもう…いえ、ありがとうございましたスクアードさん」
甲板にようやくおろされたフヨウは恥ずかしいやらなにやらで疲れたため息が漏れたがそれでもお礼を言わなければと頭を下げた。
彼女の今日の出で立ちは前絞りのボーダーマキシワンピースにベージュのサンダルで、たしかに接舷した板の上を歩くにはふさわしい格好とはいえない。
それを考えれば誰かに抱きかかえてもらうのは確かに合理的であったのだと無理やり自分も納得させて、芙蓉はようやく赤みの引いた頬に安堵して顔をあげたのだった。
さすがにすぐマルコの横に立つほど勇気は無かった。
すでに幾分か注目を浴びてはいたが、なによりも彼が帰ってきたことが大事なのだ、それを邪魔するつもりはない。
マルコがこちらを気にするように視線を投げかけているのを軽く手を振って笑顔を見せれば、彼もまた安心したように『家族』のほうへと視線を向けなおしていた。
「大丈夫か?」
「ええ、ありがとうスクアードさん」
「まぁ大丈夫とは思うがここの水が合わなかったらいつでも大渦蜘蛛に戻ってこいや」
「ふふ」
軽く笑えばスクアードは苦笑を返す。
彼女のその笑みが優しい拒絶を示していることくらいは彼にもわかっていたことだった。
「ほらよ、不死鳥が呼んでるぜ」
「ええ、行きますね」
コツ、ずる。
頼りない足取りに、彼女がそばを通る者は視線を向ける。
「マルコさん」
「フヨウ」
マルコのそばにはサッチとビスタ、そしてさらに背の大きい男が彼女を見下ろしていた。
「こいつは3番隊のジョズだ、ジョズ、前に話した俺の恩人のフヨウだよい」
「ジョズだ」
「芙蓉です」
互いに視線で挨拶を交わした二人に、サッチだけが陽気に良かったなァマルコ! と騒いでは殴られていたが誰も気にすることは無かった。
「マルコ」
「うん?」
「オヤジが呼んでいる」
「ああ」
「彼女も一緒にってことだ」
「わかってるよい」
「……っ」
グラララララァっと大きな笑い声が聞こえる。
それは、まだ離れた位置に居るというのに圧倒的な存在感。
芙蓉が息を呑むのを視界の端に捉えて、マルコは彼女の手を取った。