□13:心に触れる唇
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食堂、医務室、武器庫、弾薬庫、そして最後にと居住区へ足を伸ばす。
広い広い船内ではそれだけでも全てではなかったが、武器庫や弾薬庫のエリアは近づくなと告げるだけでもあったのでそれほど詳しい説明がされたわけでもない。
ジョズと芙蓉が居住区のエリアに足を踏み入れるとそこにはマルコがいた。


「マルコ」
「よォ、案内は済んだかい」
「……そっちは話が済んだのか」
「ああ、粗方、だけどねい」
「そうか」
「フヨウ」
「あ、はい」


マルコがすっと手を伸ばせば、呼ばれた芙蓉は迷わずその手を取った。
それがまるで当たり前のような二人の行動にジョズが僅かに目を見張ったが、それもなんということでもないかのようにマルコはジョズに視線を戻す。
その目は平静の彼そのもので、本当になんでもないことなのだ、とジョズは理解してゆるゆると笑みを浮かべた。


「悪かったねい、こっからは俺が引き受けるよい」
「ああ、部屋の準備も出来ているそうだ」
「各隊長たちにゃぁ今夜の宴のときにでも紹介するって言っといてくれよい」
「わかった」
「あ……ジョズさん、ここまでありがとうございました」
「いや。また後でな、フヨウ」
「はい」


ふわり、と笑った彼女はマルコの向こう側――それが、誰であろうと彼女のそばに寄せるつもりの無いマルコの態度が見えていたとしてもジョズは気にすることは無かった。
会ってすぐ、未だにその資質はわからないしか弱いしといった女性だが、嫌いではない。
嫌いではないし、大切な兄弟が想う女性ならばジョズにとって否定することもなかった。

二人に軽く手を振ると、ジョズは背を向けて船内のやかましい場所へと足を向ける。
きっと今頃、彼女のことについて知りたがる男たちが首を長くして待っているだろうから。


「行くかい」
「はい」
「フヨウは俺の部屋の隣だよい」
「はい」
「その前に、ちょいといいかい?」
「え?」


ぴたり、と止まったのは一番隊と書かれた部屋だった。
それを指し示すようにして、マルコは肩越しに彼女を振り返る。


「こいつは前も話した1から16まである戦闘隊のそれぞれにある、それぞれの会議室みてぇなもんだよい……ま、溜まり場って言ったほうが早いんだが」
「はあ」
「俺の隊の連中を、紹介しておきたい」


がちゃり、とノックもなしにマルコはドアを押し開けた。
そこには10人ほどの男たちがそれぞれに好き勝手に――カードをしたり、武器の手入れをしていたり――していたのをピタリと止めて、入口を見つめて目を丸くし、それからマルコに向かってそれぞれが笑みを浮かべておかえりなさい、と口々に言い出した。


「……隊長、そっちの嬢ちゃんは?」
「おう、ムスカリか」


他の男たちを制して出てきた男に、マルコは鷹揚に頷いて見せた。


「俺の『恩人』、フヨウだよい」
「嬢ちゃんが」
「あの、……芙蓉です、はじめまして」


マルコに近づく不審な女、そういった視線を向けられる、と覚悟していた(そもそもサッチの隊とビスタの隊の連中との初対面がそうだったことが起因していたのだけれども、それを責めることは誰にも出来ない)芙蓉だったがムスカリと呼ばれた男は彼女の前に出るなりぺこり、と頭を下げた。
そしてそれに倣うかのように後ろの男たちも立ち上がって彼女に頭を下げたのだ。


「え?」
「隊長が、世話になった――感謝する!」
「マルコ隊長が元気で居てくれたのも、あんたがいてくれたからだってのは聞いていたからよ」
「本当に、ありがとうな」
「……そんな、私もマルコさんには助けられて――」
「フヨウ」


慌てて男たちの頭を上げさせようとする彼女を、マルコがくっくっと喉で笑いながら抱き寄せた。
その様子にやはり男たちがかすかに目を見張ったが、それを誰もやはり口にすることはなかった。


「まぁそういうワケだからよい、お前らフヨウが困ってたら助けてやってくれよい」
「ういっす」
「あと他の連中はまだ気を許しちゃくれねえだろうから、そこも気をつけとけ」
「ああ、わかった」
「フヨウ、そこのムスカリは俺の副隊長だ、覚えておいてやってくれよい」
「え、あの、……よろしくおねがいします」
「ああ、宜しく頼む」
「それじゃあ宴まではお前らも好きにしてていいからよい」
「うぃっす!」


ほらいくぞ、と促されて芙蓉は男たちに会釈すると、慌ててすでに出て行ったマルコの背を追ったのだった。
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