□15:新しい家族は、
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わぁっ、


ドアを開けた途端に飛び込んできた騒音に芙蓉は何度か目を瞬かせた。
ゆらりゆらりと夜の闇を払うように揺れるたいまつの日々と、甲板の床と言う床に置かれた料理、その周囲で肩を組んで――見るからに酔っ払っている――楽しそうに踊る男たち。
それはまるで、遠い昔を表現する映画の一場面のような、それよりももっともっと、いろいろな意味で近しいものだった。


「ほら、フヨウ」
「――あ。はい」


繋いだ手を離す事も無く、軽く動かすことでそれを見つめていた女をマルコが促せば素直に芙蓉は彼とともに歩き出した。
時折誰かが二人のことを見て、その繋いだ手に驚いたような声を上げていたような気もしたが二人は気にも留めなかった。
少し離れた所でムスカリや他の一番隊の男たちも二人に手を振っていて、それに対して芙蓉もにこやかに手を振りかえしたりしていた。
そうこうして人の波を掻き分けて、宴会の中心部へと行けば当然のように白ひげが座っていた。

特別騒ぐでもなく、時折樽ごと口元に含んではグララ、と皆を見渡して笑う姿は本当に楽しそうでそれを見て芙蓉も目を細めた。


「オヤジィ!」
「おう、マルコ――ようやく来たか今日の主賓はおめぇだろうが」
「そういうない、居なかった間の雑事が溜まってたんだよい」
「グララ、まぁそういうことにしといてやらァ!」


来い、と無言で手招きされて二人が歩み寄る。
芙蓉は一瞬歩みを止めたが、それを引っ張るようにマルコに促されれば躊躇いがちに足を踏み出す。
常人よりもはるかに体格のいい白ひげのそばに寄れば、彼女もマルコも成人だというのに本当に大人と子供のようで少しだけ眩しいものを見るように芙蓉は眼前の白ひげを見上げたのだった。


「マルコ、こいつは俺のそばに置いとけばそうそう問題はねぇだろう……兄弟たちンとこ、行ってやんな」
「紹介しろだのなんだの、五月蝿いだろうねぃ」
「グララ……そんなまだるっこしい真似してるタマじゃぁねえだろう、あのバカ息子どもが」
「……それもそうか、じゃあオヤジ、頼むよい」


ふ、と離れた手は随分と熱を生み出していたのか、突然そこだけ冷たくなったような気がして芙蓉はきゅ、と手を握り締めて――そしてマルコを見た。


「いってらっしゃい」
「ああ、飲み物とか好きに飲めばいいからよい」
「ええ」
「食事も」
「大丈夫よ、だから――ただいまって、皆に言ってきて?」
「……ああ……」


一瞬虚を突かれたような表情を見せたマルコが、ゆるゆると笑みを浮かべる。
その様に、白ひげもそうっと微笑んだ。


「すぐに、戻ってくる」
「私は、ここにいるから」


それは他愛の無い、普通の会話。
喧騒の中に掻き消える、それほどの声音。

だけれどそれは、どんな言葉よりも心地よかった。


「マルコおおお!」
「ちっ、うるせェったらねえよい……それじゃオヤジ、」
「おう、行ってこい」


グララ、という笑い声を背に男が喧騒の中に消える。
それを見計らったように、キャリーが芙蓉の前に来てウィンクを一つした。


「ふふ、飲み物……持ってきたわよ?」
「キャリー!」
「問診の時にあんまりアルコールに強くないって言ってたから軽いの持ってきたわ」
「ありがとう」
「さて、と……キャプテン、お酒もほどほどになさってくださいね!」
「グララララ、こんないい日に酒を飲むななんて無粋なこと言ってんじゃねぇぞ!」
「まったくもう! 婦長も怒ってるんですからねー!」


笑顔でそう言ってキャリーは芙蓉に振り向いてまたウィンクをした。


「私、酔っ払いの介抱やんなきゃならないからまた後でね!」
「ええ、いってらっしゃい」
「……うふふ、それいいわね!」
「え?」
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