□16:アナタトワタシ
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宴から数日経ったその日も、海は快晴に恵まれていた。
芙蓉は広いモビーディックの内部をすべて把握したわけではなかったが、生活に支障が出ることもなく平穏に過ごしていた。
特別、船員たちに気に入られようとするでもなく驕るでもなく、白ひげに無為に会いに行くわけでもない。
話し掛けられれば和やかに応え、頼まれれば雑用をこなす彼女に悪感情を抱くものはあまりいなくなっていた。
だからといって特別親しくなるわけでもなく、芙蓉のそばには基本的にはマルコとキャリーが代わる代わるいる、というくらいだった。

隊長格の中ではジョズ、ビスタ、サッチがこまめに彼女に話し掛けている姿もあるためかそれぞれの隊員も芙蓉には優しく接しているようでもあった。


「ねえキャリー?」
「なアに?」
「私にできる仕事ないかし――」
「いーの!」
「キャリー……」
「今はまだ、慌てずに船に馴染んでちょうだい?」


仕事を求める芙蓉とそれを阻むナース――またある日によってはそれがマルコ――の姿は至るところで見られるので、芙蓉がただマルコに恩を着せるだけの女でないことは噂としてあっという間に広がっていた。
むしろ頼まれた雑用を和やかに一般隊員と談笑しながら片付けていたらそれを取り上げられたらしい話題まで付随して、下手をしたら同情を買ってもいたりする。


困ったなあ、と笑う芙蓉に、キャリーはただ気にするな、と笑うだけなのだ。
キャリーからすれば、マルコの女――本人たち曰く、微妙にまだ違うらしいが彼女からしてみれば何が違うのかよくわからない――なのだし今はまだ秘密らしいが白ひげからも愛されているのだから、自由に、ただ自由に過ごしてくれればいいと思うのだ。
何やら今までの人生は大変なものだったようだし、今は苦労などマルコや男たちに押し付けてやればいいと思うのだが、新しい家族で友人はどこまでも真面目で優しいらしい。


「ま、そーいうフヨウ大好きよ!」
「え?」
「ね、そろそろお風呂行きまショ?」


茜が差し込む時間に、毎日とまでいかずとも二人が共に風呂場に向かうのも、すっかり日常生活の一部となっていた。
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