□23:誇り高き
2ページ/4ページ

「アンタは変わってる」
「そうね」
「だがそれがイイ、そう思わねェか」
「…わからないわ、私がさっきした行動は多くの人からすればただの愚かな行動でしょう?」
「フフッ、フフフフッ」


自虐的でもなく、声を潜めるでもない芙蓉は食前酒を傾けて色を楽しんでいる。

ドフラミンゴをドフラミンゴと知っての上で、まるで意に介さない女は苛立たしくも新鮮だった――特にこんな弱々しい女だからこそでもあった。

これがボア・ハンコックのような強い女であればわかる気もするが、目の前の芙蓉は見ていてもただの女だ、それも街の女たちよりも弱々しく見える。


(青キジは甘ちゃんだからだろうが、)


黒刀の大剣豪と、海賊王に最も近い男がこの女を助けた理由でなんであろうか。
天竜人を嫌っての気まぐれである可能性は十二分にあったが、珍しいことには違いない。


「フッフッフッ」
「楽しそうね」
「ああ、楽しいぜ」
「変な人」
「フフフフッ、ヒデエな!」


誰もが恐れる七武海の一人、そんな男に面と向かって怯むでもなく媚を売るでもなくまさに怖いもの知らずな子供のようにあっさりと言ってのける芙蓉に周囲は固唾を呑んでそのやり取りを見守っている。
それらの視線はドフラミンゴからしてみれば鬱陶しいもの以外のなにものでもなかったが、目の前の女から視線をそらすことはなかった。


(まァ俺も退屈凌ぎだしな、せいぜい楽しませてもらおうじゃねエか)


覇気をものともしない、だけれどもその腕も足もどこをとっても細っこいただの女。
だけれどもその蜂蜜色の瞳は揺るぐことが無く、真っ向からドフラミンゴを見据える。

ただの退屈凌ぎ、そう思ったがこれはいい拾い物だと笑みを深くする。


「俺のことは気軽にドフラミンゴと呼んでくれていいぜェ」
「そう、ありがとうドンキホーテ・ドフラミンゴさん」
「………フフッ、フフフフッ」


さらりと押し付けられた好意を受け取りながら真っ向から否定して見せた芙蓉は今はサラダを食べている。
震えながら給仕するウェイターはやや目障りだったが、この奇妙な女との時間の共有は思った以上にドフラミンゴを楽しませたのだった。


「食事の後は買い物にでも行くか、何でも好きなものを買ってやるよ」
「結構よ」
「ツレないこと言うなよ」
「あなたこそ、いいの?」
「あン?」
「天竜人にすぐ知れるわよ、自分が捕まえろと言った女をドンキホーテ・ドフラミンゴが連れ歩いている、とね」
「フフッ、だからどうした?」
「七武海でも逆らえない、そうじゃないの?」
「フフフッ、フフッ、フフフフッ!!」


男は面白い冗談を聞いたかのように笑う。
それに少しだけ眉を顰めた芙蓉を認めて、ドフラミンゴはぐっと顔を寄せる。
内緒話をするような、キスをするような。
まさにそんな距離だが顔を赤らめるでもなくきょとんとした女に再び男は笑みを深めた。


「あんた、おもしれェな」
「そう、かしら?」
「なぁ、俺と来いよ」
「……お断りよ、私もう居場所はあるもの」
「へぇ、そりゃぁ残念だったな――俺ァ、海賊、だぜ?」
「そうね、『欲しい物は奪う』のよね」
「ああ、よく知ってるな」
「じゃああなたも知っているわよね?」


にっこりと笑った女は満足そうだった。
その笑みの理由が自分の背後にあると知ってなお振り返ることも無くドフラミンゴは余裕たっぷりに芙蓉に向かって笑いかける。


「海賊はてめぇの宝をやすやすと奪わせたりしねえよい」
「白ひげンとこだったんだな、あんたの居場所とやらは」
「ええ」
「フフッ、『不死鳥』が迎えに来るほどのオンナだったとはなア」


ドフラミンゴの背後に立ったのは、マルコだ。
平素と変わらぬ穏やかさでありながら、その視線は厳しい。
だがどちらの男も、動かなかった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ