□23:誇り高き
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「ごちそうさま、ドンキホーテ・ドフラミンゴさん」
「ああ、金はいらネエ」
「でも食べたのは私だけよ」
「それもサラダと食前酒だけじゃねえか、フフフッ、もっと食えばいいのに」
「あなたたちと胃の大きさを一緒にしないで欲しいわ……」


呆れたように言いながら、芙蓉が自分の代金を机の上に置こうとするのをドフラミンゴが掴んで止める。
彼女の手を掴んだ瞬間背後でマルコの気が揺れたが、それすら今のドフラミンゴには愉悦だった。


「俺が食事に誘ったんだ、払うぜ」
「あら紳士なのね」
「なぁ、俺のところに来いよ」
「何度言われてもお断りよ、ドンキホーテ・ドフラミンゴさん」
「フッフッフッ、フフッ、フフフフフッ、俺の誘いを断る気の強さもキライじゃないぜ?」
「褒められたと思っておくわ――手を離して」
「家族ごっこで満足か?」


さほど強く掴んでいたわけでもない男の手からするりと細い手が離れ、コツ、ズル、と彼女特有の足音が背後のマルコのほうへと移動する。

ドフラミンゴは振り向かない。

コツ、ズル。
その足音が止んで、それでも彼女の気配はまだそこにある。


「ごっこじゃないわ」
「アン?」
「私は、芙蓉――『白ひげ』エドワード・ニューゲートの娘、その家族は私の誇りよ」
「――娘……!」


どより、と周囲で聞き耳を立てていたらしい客の間からどよめきが起こる。

ドフラミンゴもその宣言を受けて納得がいった。


(ナルホドな、白ひげのジジィが助けたのは愛娘可愛さで――その娘は命や自分の矜持とやらよりも『白ひげの旗』を守り通したわけか)


ミホークの意図だけは読みきれないが、どうもやはり面白いオンナと出会ったようだ、とドフラミンゴは首だけむけて肩越しに彼女を見た。


「フヨウ、俺の船に来いよ」
「まだ誘うの?」
「ああ、気に入っちまったもんは仕方ネエだろう?」
「さすが海賊ね」
「あんたを『奪う』」
「させるかよい」
「勘違いすンじゃねえぞ不死鳥、その女の身柄を奪って犯したところで『奪った』ことにならねえ位わかってんだ」


フフフフッと声高に笑った男にマルコが渋面を作る。
だがそれ以上はドフラミンゴもどうこうするつもりがないのか、ぐびりと手元のグラスに残る酒を仰いで彼もまた立ち上がる。
そして迷うことなく二人のそばをスタスタと通り過ぎていったのだ。

ひらり、と手を振るその様子に芙蓉が苦笑を零せば、その姿が見えなくなってようやくマルコが息を吐き出しグッと彼女に詰め寄った。


「まったく……変なヤツに絡まれるんじゃねえよい!」
「マルコさん居残りじゃなかったの?」
「サッチが血相変えて戻ってきたからこっちも慌てて探したんだよい!」
「……サッチさん無事かしら?」
「イゾウに聞けよい」
「……ねえマルコさん、船に戻りましょうか」


もともと視線を集めていた状況であったが今はより視線を集めている。
別段今更気にすることもないのだが、芙蓉としては疲れていたしマルコも来てくれた安心感もあってくたくただったことを思い出したのだった。


「ああ、そうするか」
「人ごみがすごすぎて、やっぱり私だめみたい」
「サッチじゃねぇヤツをつけてやればよかったよい」
「あれは私が悪いのよ」
「それでもサッチも悪いんだよい」


人ごみにまぎれてしまえば、芙蓉は目立たない。
確かに天竜人に気に入られたりドフラミンゴに連れまわされたりしたが、いたって普通の容姿なのだからそれも致し方ないと言えた。
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