□23:誇り高き
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はぐれないように自然と繋がれた手に、芙蓉は笑みを浮かべる。
それはあるかないかの僅かな笑みだったが、マルコは気づいたようで訝しげに彼女の顔を覗き込んだ。


「どうかしたかい」
「いいえ、マルコさんと一緒に歩けて嬉しいと思って」
「……またそんなこと、言うんじゃねえよい」
「ああそういえば、あの人に『娘』であることを思わず宣言してしまったわ」
「いいんじゃねえかい?」


少しばかり時期尚早な気がしないでもないが、隊長格はすでに彼女の存在を認めているし弱いながらもただ庇護下にあるだけではない芙蓉を船員たちも容認している。
すでに『家族』である芙蓉の真実で驚くのは周囲だけなのだから。


「天竜人に頭を下げたくなかったんです」
「いやだったのかい」
「ええ、サッチさんやジョズさん、イゾウにぃ、――マルコさん、あなたたちと一緒にいて、簡単に逃げる道を選ぶのが悔しかったから」
「……ハハッ、やっぱりお前はオヤジの娘だよい!」


見えてくる、『我が家』から彼女とマルコの姿を見つけたらしい船員たちが何人も満面の笑みで何かを叫んでいる。
近づくに連れて聞こえてくる、「お嬢が帰ってきたぞー!」「無事だ、元気そうだ!!」という声に芙蓉も笑顔を見せた。


「ただいま!」
「フヨウちゃんんんんん!!!!!」
「きゃああああ?!」


甲板に着いた彼女に突如として飛び掛ってくるようにして涙ぐんでいるのはサッチで、その姿はまるで戦闘にでも出たかのようにぼろぼろで。
そして彼女の陰に隠れるようにしたサッチを確認して前方を見れば、銃を構えたイゾウの姿。
そしてそのやり取りを呆れつつも止める気がなさそうであるジョズの姿に、甲板に額をこすりつけるようにして土下座している4番隊の隊員たち。


「……うわあ」
「無事だったんだねえ、フヨウ」
「ええと、ただいま、イゾウにぃ?」
「ああ無事でなによりだ、なぁにサッチにはちょいと込み入った話があっただけで心配するこたぁねえよ」
「ええと、話ならなんで銃が」
「男同士には色々あるってモンなんだ、さて今度は可愛い妹に少々お説教させてもらおうかな」
「それには俺も同席させてもらおうか」
「じょ、ジョズ、さん、も」
「お前ら、ちょっと落ち着けよい」
「マルコ、お前」
「フヨウは白ひげの娘として天竜人に頭を下げなかった、それだけだよい」
「………」
「………」
「さぁフヨウ、オヤジんとこ顔出して来い」
「え、でも、あのサッチさん……」
「お前が無事ならもうあとは大丈夫だよい」


だから行け、とマルコに背を押されれば芙蓉としてはそれ以上そこに留まることも出来なくて。
また後で、とジョズとイゾウに言って去る背中を見送って、マルコが男たちに向かってため息を吐き出した。


「まったくうちのお姫さんはイイオンナすぎて厄介なヤツに気に入られちまったようだよい」
「天竜人か?」
「いいや、もっと面倒だい」
「……誰だ」
「ドンキホーテ・ドフラミンゴ」
「これもそれもサッチ、てめえがしっかりそばにいなかったから!」
「言ったところでもう遅いだろい」


マルコはクッ、と笑った。
あまりにも不釣合いなその笑いに、マルコはすまねえ、と一言置いて自分の隊の男たちの帰参――どうやら芙蓉が戻ったことを受けて戻ってきたようだ――を認めて声を掛ける。


「フヨウは、奴さんの『船に来い』って誘いを3回もツレナク断ってるんだよい、それが面白くってなア」


そうして芙蓉の知らないところで彼女は七武海とも対等に話が出来る胆の持ち主と誇張された話が船員たちの中に広がっていくのだが――そしてそれはモビーディックだけの話ではなく、島内にも広がっていたわけだが――それが後に響くことに、誰も気が付くことは無かった。




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