□26:藍に溶ける
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「グララララ、目を覚ましたか」
「……父さん?」
「ああ、キャリーもいるぞ」
「フヨウ!!」
「キャリー……ごめん、手を貸して…起き上がりたい」
「どうしたの、身体が痛むの?!」


酷く身体がだるくてキャリーの手を借りて身体を起こせば、そこは白ひげの部屋で。
そういえばマルコがここに連れてきてくれたのだ、と思い出して芙蓉はまだ覚醒しきらない頭を軽く振った。
心配そうにしている友人ににこり、と微笑めば安堵したのか長いため息が吐き出される。


「キャリー、私がここに来てからどのくらい時間が経っているの?」
「それほど経ってないわ、5分くらいじゃないかしら」
「そう……私、行かなくちゃ」
「え?!」
「真珠を取りに行かなくちゃ」
「何を言ってるの、フヨウ?!」


ゆっくりと立ち上がる芙蓉は、驚くキャリーをぎゅっと抱きしめた。


「……フヨウ?」
「大好きよ、キャリー。私の大切な友達」
「どうしたの、まるで……ねえ、遠くにまさか行くの?」
「違うわ、でも大好きだって覚えてて――私が帰ってこれるように」
「大好きよ、私も。大切なの、ねえ、フヨウ」


今までにないほどうろたえるキャリーに芙蓉は落ち着いて微笑む。
それがもう何かしらの決め事があってどこかに行くのだ、と。
キャリーは着いていけないのだ、と気が付かされるようで。


「そうそう父さん」
「なんだ、このじゃじゃ馬」
「――今もただ変わらず愛してる、だって」
「グラララ、……そうか」
「それじゃあ行って来るから、キャリーを困らせないでね?」
「それを言うならお前が困らせてるんだろォが、アホンダラァ」
「ふふ、ね、キャリー」
「……フヨウ……」
「『行ってきます』」
「!」
「ね?」
「………ええ、『いってらっしゃい』!」


必ず帰ってきてね、と続いた言葉に芙蓉はただ微笑んでみせる。
いまだ身体はだるかったが、目覚めた直後に比べれば段々と軽くなっていくのを感じて彼女は迷うことなく甲板へと足を進めた。
そこに必ず彼がいると、信じている。


ガチャ、と音を立ててドアが開く。
それは些細な音に過ぎず、甲板で慌しく出港準備をする人々には聞こえない。
そんな人々の間をすり抜けるようにして、芙蓉が目指すのはただ一人。

すれ違うクルーが目を丸くする中、芙蓉はただまっすぐにマルコの下へと足を進めた。


「マルコさん」
「……フヨウ」
「マルコさん、手伝ってくれませんか」
「?!」


そばに居たハルタとジョズが顔を見合わせた。
一体彼女は何を言っているのだろう、そう思っているであろうコトは芙蓉にもよくわかった。
自分がその立場であれば頭がおかしくなったのかと思ったかもしれない。


「真珠を取り戻して海に還せば、出航が楽になるかもしれない」
「………フヨウ」
「それでも、どこにあるのか、誰が持っているかも定かじゃない」
「フヨウ!」
「私が海に還せば、“彼女”は受け取る!」


それ以上聞きたくない、と言わんばかりに彼女の名前を呼ぶマルコに、強く芙蓉は言い切った。
そして息を吸って、ふうわりと微笑んでみせる。


「あちら側には行きませんよ、まだ――あなたと、色々なものを見たいもの」
「どこにも行ってくれるない」
「そう思うなら、私をそばで捕まえていてください」
「………かなわねえよい……」
「お願い、時間がないの」
「わかってる……おい、イゾウ呼んでこい。ハルタ、出港準備はお前が続けろい。ジョズ、他との小競り合いのほうはお前が頼むよい」
「あ、うん、あの、わかった!」
「それは構わないが、あとで説明してくれるんだろうな?」
「余裕があればしてやるよい」


呼びつけられてムっとしているらしいイゾウが現れたが、芙蓉がそこにいることに僅かに表情を穏やかにした。
そしてマルコと彼女の表情があまりにも真剣で眉を顰めていれば、芙蓉がイゾウのそばに寄った。


「お願いイゾウにぃ、力を貸して!」
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