□26:藍に溶ける
5ページ/8ページ

唐突に頼み込まれてイゾウは目を丸くしたが、彼女の必死さに思わずマルコを見れば無言で頷かれる。
そしてもう一度芙蓉を見ればあまりに必死な表情に息を呑み――そして思わず笑った。


「可愛い妹の頼みを、俺が断るわけないだろう?」
「イゾウにぃ!」
「それで、どうしたらいい」
「1番隊と16番隊でちょいと探し物だよい――結構面倒ごとになるかもしれねぇ、戦闘準備だけは怠るない」
「あいよ、それで?」
「『歌うクジラ』の『真珠』だよい」
「……伝説級のお宝じゃねえか、ハハハッ、わかったよ!」


伝説によれば――歌うクジラが歌を歌うときに流す涙は虹色の輝きを持つ真珠となり、海の女神を彩る飾りになるとも、海の源になるとも言われていて。
誰も見たことがないが、歌うクジラが存在する以上きっとあるのだろう、と誰もが欲していた宝でもあった。

それが一体この状況で何を示しているかはわからなかったが、イゾウは芙蓉を安心させるようにポン、とその頭を撫でた。


「安心しろよ、俺が必ず見つけてやる」
「見つけたらすぐに連絡をくれよい、……フヨウ、お前はここで――」
「待たないわ」
「お前が行っても足手まといだよい」
「わかってる、でも“声”が聞こえるかもしれない」
「………」
「ハハッ、うちのオヒメサマはまったくもってイイオンナ、だなぁ?マルコ」
「……まったく、黙って守られてくれるといいんだがよい」
「そうじゃないからイイんだろう?」


ククッと笑うイゾウに諦めたようにマルコも深いため息を吐き出して、そうして笑った――吹っ切れたように。


「フヨウ、お前俺のそばを離れるんじゃねえぞい」
「はい!」
「いい返事だ――ムスカリ、準備できてるか!」
「おうよ隊長、いつでも行けるぜ」
「嬢ちゃん、俺たちに任せな!」
「16番隊の、どっちが先に見つけるか賭けようじゃねえか!」


笑いあう男たちが一斉に芙蓉を見る。
そして任せろ、と口々に言ってやはり笑った。
その笑顔に、芙蓉も、一瞬面食らってから花が綻ぶかのように笑ったのだった。


「はい、皆さん頼りにしてます!!」


そんな彼女をイゾウとマルコは見て、それから顔を見合わせて笑った。
イゾウはそれを合図に自分の部隊を引き連れてサッと身軽に船を降りて町へと駆け出す。
続いて一番隊の隊員たちも遅れないようにと走り出した。

芙蓉自身、『真珠』がどのようなものかは理解できていない。
ただそれがただの涙ではないということ、それを海に還さねばならないということだけである。


(そういえば、)


海が赤く染まったときに、ドフラミンゴは何かを言っていなかったか。
それを思い出して芙蓉はマルコの腕を掴んだ。


「ドンキホーテ・ドフラミンゴさんが、言ってなかった?」
「あ?」
「“天竜人の坊ちゃんが、『歌うクジラ』の『涙』を欲しがって”って……!」
「!!」


そういえばそうだ、とマルコも思い出す。
あの時は彼女の様子ばかり気を取られていたしドフラミンゴの言葉を真に受ける必要も感じなかったので聞き流していたが、もしそれが真実ならば。


「『涙』は天竜人のトコかよいっ……!!」


それはつまるところ、海軍に守られ、SPに守られた鉄壁の檻の中。
ぎり、と歯噛みするが時間はないし彼女の信頼を裏切りたくもない。
マルコは伝電虫を掴むとイゾウにそれを伝えた。

波が引き始める現象は、津波の前触れ。
それを見てどよめきと悲鳴が絶えずそこらから聞こえる。
慌てて避難をする人々の流れと、怒号のように避難案内をする海軍や町の人間を尻目にマルコは天竜人が乗る船の位置を頭の中で思い浮かべていた。


「………マルコさん、」
「大丈夫だよい」
「はい」
「俺を信じてくれるんだろい?」
「はい、勿論!」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ