□30:警告
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(綺麗な人、本当に)


自分の容姿に絶大な自信があるのだろう、それがより彼女の魅力を引き立たせているに違いないと芙蓉は思う。
嫉妬していた自分がやはり無駄であった、とそして思う。


(私と、彼女で比べる方がおかしい)


それは聞く人が聞けば、なんとも情けない卑下ではないかと叱咤しそうなものだった。
だが芙蓉の表情は穏やかだ。


(私は、ただ私であればいい……)


豊満な胸も、くびれた腰も、ないものはないのだ。
羨ましく思ったところで増えるわけでもないし、芙蓉にそれをマルコが求めているわけではない。
太れ、と言われてはいるがそれは彼女が痩せすぎではないかと心配するからだ。


(私は何を恐がっていたの)


ふわり、と口元に微笑を浮かべてすらいる芙蓉に、自分の美貌が不安を一切与えていないと気がついたアコニタムが途端に笑みを消して鋭い眼差しで彼女を見つめる。


「随分余裕ね、アナタ」
「そうかしら」
「ねエ、その余裕さがあるならアタシにこの部屋頂戴?」
「ふふ」
「大体アナタ、なんなの? 隊長格でもないのに彼らの部屋がある一角に立派な一人部屋もらって、マルコのオンナなのに同じ部屋にもいないで」
「………それが、貴女に何の関係があるのかしら」
「オオアリでしょ、私はマルコとよりを戻したいの」
「そのために我儘は許されると?」
「アナタよりもアタシのほうが、彼をずぅっと……満足させてあげれるでしょう、痩せっぽちの小鳥さん」


明らかに性的なものを匂わせたアコニタムに今度は芙蓉も苦笑せざるを得なかった。
性的なことにのみ置いていえば、誰もがアコニタムのほうを抱きたいと思うのではなかろうか、とは確かに思うが。


「アコニタムさん、それでは娼婦と変わらないと思いませんか」
「なっ」
「マルコさんに抱かれたら、彼のオンナを名乗れると?」
「違わないわ!」
「使い捨てにされただけだったらどうするんです?」
「アタシを? 極上の女を抱き捨てできるような男なんているもんですか!」


それこそ侮辱、とでも言わんばかりに言葉を荒げるアコニタムを芙蓉は静かに見つめる。
蜂蜜色の瞳は侮蔑の色も、憐憫の色も何も無い。


「白ひげは家族を大事にする、それがルール」
「……何よ」
「あの人は私のオトコ、そして家族。彼がそんな安っぽい手に乗るって侮辱は、金輪際しないでください」
「………っ」
「マルコさんだけ大事にすればイイ、という貴女の考えもこの白ひげの船においては異端であることを考えなさい」
「偉そうにっ……!!」
「でもあってるわね、ンフフ」
「!!」
「!」


静かな芙蓉と荒げるアコニタム、その女二人の声にさらに一人加わった。
二人ともいつドアが開いて、いつ閉まったのか、それも知らない。
だがそこには菫がかった髪に黒い瞳の女が不敵に笑って立っていたのである。


「白ひげ海賊団は、傘下も含めて『家族』であり、家族を傷つけるものは何人たりとも許さない」
「………」
「………」
「確かに正論よ、お嬢さん……貴女のその言葉はね、でも守り通せるのかしら――命がかかったこの瞬間も?」


ひゅ、と空を切る音がする。
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