□30:警告
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「女の部屋に入るのにノックなしなわけ?」
「お前の部屋じゃねえだろい!」
「ふぅん、フヨウの部屋にアンタは入るときノックなしなわけ」
「……時と場合によりけりだよい」


ぐ、と言葉に詰まったマルコにずずいとベイがにじり寄り、ニヤリ、と笑った。


「何アンタ、フヨウ狙いなの?」
「は?」
「え、ベイ……」
「何言ってんだ、フヨウは元々俺のオンナだよい」
「えええ?!」


素っ頓狂な声を上げたベイが今度は芙蓉を勢いよく振り返り、そして慌てたように詰め寄った。


「ちょっとアンタ、人生投げるにはまだ早いわよ!」
「ベイ……?」
「どういう意味だよいっ」
「親父様が信頼してるだけあるしある程度は強いけど、おっさんでバナナでパイナップルよ?!」
「俺ァ人間だい!」
「マルコさんもベイも落ち着きましょうか?!」
「「落ち着けない(わ/よい)!!」」


ぎゃぁぎゃぁと文句を言い合い始めたマルコとベイに呆れたように芙蓉は天を仰ぐ。
ドアはまだマルコが開け放したままで、この喧騒は丸聞こえであって、時折誰かが覗いては芙蓉に同情的な眼差しをくれたが誰一人として助けようとはしてくれなかった。
かといって芙蓉がここを出るという考えは無く、二人の言い争いは何時まで続くのだろうと諦めてベッドに腰掛けて頬杖をついた。


「なんだぁ、何騒いでンだ、不死鳥にベイ」
「あらスクアード船長じゃない」
「スクアード……」
「スクアードさん!」
「クカカ、フヨウ久しぶりだなァ、ン?」
「お元気そうですね、スクアードさん」
「ォウ、それでお前らなにやってんだ?」
「スクアード聞いてよ、マルコ隊長がフヨウを自分の女だって言うのよ!」
「あーベタ惚れで攫ってきてんだから権利はあるんじゃねえか?」
「ほれみろスクアードの方がわかってるじゃねえかよい!」
「いやもういい加減私の部屋で言い争い止めてくれませんかね」
「攫われてきたの? 親父様の娘を攫ってきたわけ?!」
「攫った後にわかったんだからしょうがねえだろい?!」
「いやなんでさらにそこでヒートアップするかな?!」
「クカカ、よくわからねぇがフヨウはこっちにこいよ、うちのクルーたちもお前に会いたいってよ」
「……そうですね、皆さんに私も会いたい」
「その台詞言ってやればアイツらも喜ぶぜ」


スクアードに手招きされるままに芙蓉が笑ってそちらにいけば、ベイとマルコは顔を見合わせる。
しばし無言で睨みあって、それからどちらからともなく視線を外した。


「お前のせいでフヨウがスクアードといっちまったじゃねえかよい……」
「私のせいじゃない、マルコ隊長が鈍臭いだけよ……興ざめしちゃった、親父様のとこ行ってくる!」
「ちっ、相変わらず勝手な女だよい!」


そうしてそんな二人を置いてけぼりにした芙蓉はスクアードの背を追うようにして甲板へと姿を出した。
強い日差しが扉を開けた瞬間彼女に降り注いだが、先ほどまであったダルさも吹き飛ぶほどの賑やかさが彼女の目に飛び込む。


そこにはベイの船員と砕氷船、スクアードの船員と彼の船、そして白ひげ海賊団のクルーたちで溢れかえっていたのだ。


「お、嬢ちゃん!」
「本当だ、スクアード船長に嬢ちゃんじゃねえか!」
「嬢ちゃん! ほらこれ土産だぜっ」
「九蛇風のドレスだぜ、これで不死鳥もイチコロさ!!」
「ばっか、俺の持ってきたこの魚人島の菓子のほうが喜ぶに決ってんだろ!」
「なにおー?!」
「わぁ、……皆さんお元気そうで、それが一番嬉しい!」
「「「嬢ちゃん………っ」」」


土産よりも何よりも、いかつい男たちに満面の笑みで飛びつくように笑いかけた彼女に大渦蜘蛛のクルーがでれっとするのをベイのクルーたちが冷ややかに、どこか落ち着かなさげに見ていた。
その視線に気がついたのか、くるりと芙蓉は身を翻してそちらを振り返り、にこり、と笑った。


「芙蓉です、どうぞ皆さんもよろしくお願いします!」
「あ、ああ……」
「よろ、しく」
「嬢ちゃん、こっちこいよ!」
「土産ももっとあるんだ!」


ぐいぐいと連れて行かれそうな芙蓉に今度は大慌てでそれを奪回しに行く白ひげのクルーたち、邪魔するな、連れて行くな、何の騒ぎだ、と段々と賑やかさは増していってそして夜が訪れる頃には盛大な篝火までいつの間にか用意されての宴になったのだ。
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