□01:ようこそ、
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ザパァっ……


海面に二人で顔を出せば、視界に浜辺がある。
芙蓉は無我夢中でマルコを抱えたまま泳いだ。

常人ならば、服を着た状態で意識の殆どない成人男性を、泳ぎが並程度の実力しかない女性が助けながら泳ぐのは至難のわざである。
だが今の芙蓉は、それを一切感じさせない――まるで水を得た魚のように一気に泳いだのだった。


浜辺にたどり着けば、濡れた服やそれに吸い寄せられる砂が気持ち悪い。
芙蓉はマルコの呼吸があるのを確認して、砂浜に転がした。
海から上がったことで力を取り戻したのか、ゆるり、とマルコが目を開けてグボ、と海水をしたたかに吐き出す。

何回か咳込むその背中を摩るようにして芙蓉も深々とため息を吐き出した。


「………ツイてねェよい」
「空から落ちる移動とは思いませんでした」
「海ン中だけは無理だよい……」


悪魔の実による能力者は全てといっていいほどカナヅチになるのだ、と告げられて先ほどまでの弱った姿に得心がいったところで。
芙蓉はキョロリ、と周りを見渡した。


「……どこでしょうね、ここ」
「さあねい、まずは町を探さないといけないかねい…電伝虫がうまいこと見つけられりゃあいいんだがよい」


ポタリ、と雫がこぼれては砂浜に染みを作った。
芙蓉は立ち上がるマルコの手を、思わずとった。


「……フヨウ?」
「ぁっ…」
「どうした?」
「わた、わたし」
「……とりあえず、安全な場所まで行くよい」


俺がいるよい、マルコはそう安心させるように告げれば彼女は眉をまだ苦しげに寄せて、だが少しだけ安堵した様子で頷いて立ち上がった。


とりあえず、高台らしい場所まで浜辺から山道をつたって歩いたが、見渡せる範囲内には町らしいものは見えなかった。
マルコが仕方なしに不死鳥に姿を変え上空から島を見渡してもそれは同様で、どうやら此処は無人島であるという見解に落ち着いたのだった。


「問題は、ここがどこの海賊の領土か、海軍のか」
「………」
「オヤジたちの船が近くにあるかもわからねェしな」
「マルコさん……」
「ん、ああ大丈夫だよい、心配するない」


とりあえず、今日は身体を休めて食料を見つけるのが先だと微笑む姿が自分を安心させようとしていることに気がついて芙蓉は再び言葉を飲み込んだ。
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