□01:ようこそ、
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大きな獣もいなそうなので、海が見える位置を維持しながら拓けた場所を確保する。
濡れた服は潮風で急激に体温を奪う。
幸い日がまだ高かったのでそれほど厳しくはなかったし、南方に位置しているのか気候も割と暖かい。

脱いで乾かすのが1番手っ取り早いのは二人ともわかっていたが、口には出しづらかった。

だが諦めたようにマルコがため息を吐き出し、つられて芙蓉も吐き出す。


「……背中合わせなら、見えねェよい」
「そ、ですね」


互いに下着姿で背中を合わせ、ぼんやりと今後について口を開く。
暑めの日差しと、潮風に服が揺らめいていた。


「……此処が安全だと判断できたなら、俺が飛んで周りを確認してくるよい」
「………」
「――置いていったりなんかしねェから」
「あ……」


出来る限り優しい言葉に、芙蓉が眉を寄せる。
言葉の続かない彼女を背中に、マルコはその様子がおかしくて心配だった。

無論知らない世界で、いきなり海に落とされてしかもたどり着いたのが無人島では平和な暮らしをしていた彼女が不安にならないわけがないことを理解していたが、それだけではないのを感じたのだ。


「――フヨウ?」
「マルコさん、私」
「ん……」
「カリプソーに、会った」
「!!??!?」


ばっ、とマルコが身を離し芙蓉の方を向いた。
そんな彼に気がついているはずの彼女は、自分を抱きしめるようにして俯いていた。


頼りないほどの細い身体が、服がないために男の目に晒される。
腰辺りから背中にかけて見えた傷と併せて、マルコは眉をしかめた。


「……フヨウ、無事、なんだよな?」
「無事……?」
「カリプソーに出会ったやつで生き残ったヤツぁいねえ、そう俺は聞いてるよい」
「私、」
「……フヨウ?」


今だ振り返りもせず、膝を抱くようにして俯く芙蓉にマルコは手をかけるか躊躇った。


「私、確かにあちらの世界では居場所がなかった」


友達もいたし、優しい人もいた。
だけれどそれは、『居場所』とは違う。
家族のいるところを、母を失って――求めて失敗して。
自ら先を恐れて閉じこもった芙蓉には、自分しかなかった。
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