□01:ようこそ、
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ただ時折、逃げ出したい衝動に駆られることはあった。
いつかは乗り切れる、そうやって目を逸らした。


だけれども、それはあまりにも。


「私の父親は、こちらの世界の人間」
「………ッ」
「私の母親は、あちらの世界の人間」


だから『あるべき場所へ』父母は離れた。
では、芙蓉は。
自分はどちらでもなかった、その事実は。


「カリプソーが教えてくれました、父の名前も」
「………」
「私がこちらの世界で暮らせても、私が最弱であることには変わりないのだと」


居場所を作る強さなど、持てそうもない。
突然知った事実は、あまりにも。
あまりにも、突然過ぎた。


「……フヨウ、忘れてねぇかよい」
「………」
「お前は俺に――不死鳥マルコに攫われてきたんだ」
「――……、」
「お前の居場所は、お前の理由は俺だろい」


にやり、と笑ったマルコをびっくりしたように見上げた芙蓉は何度か瞬きをしてから。
少しだけ、頬を染めて唇を突き出す仕種をした。


「マルコさん、女タラシでしょ」
「は、なんでそうなるんだよい?!」
「そんなプロポーズみたいな台詞、さらっと言えちゃったりするあたり!」
「プロッ、な、俺はなあっ」
「――ありがと」
「………ッ」


子供のように小さくうずくまっていた自分に差し出された手は、たやすくこうも引き上げる力強い手。
その手を選んだのは紛れも無く自分であることを胸に、マルコに笑いかけた。


「ね、そろそろ服乾いたかしら」
「あ、ああ」
「……そんなまじまじ見られると逆に恥ずかしい!」
「フヨウ、お前船についたらまずは食って肉つけろい」
「胸に?」
「全体的にだい!」


クスクス笑う芙蓉がからかうように言うのを理解しつつもマルコはややむきになって言い放ち、そして笑った。

二人は乾いた服を身に纏うと、顔を見合わせた。


「…マルコさん、あの」
「うん?」
「私、まだ混乱していて話せないこともあります」
「……ん」
「でも、…人と違うって、すごく怖い、ですね」


それを受け入れて堂々としているマルコさんはすごい、と。
そうしなければいけないとしても。
そう呟くように言った芙蓉を、マルコはただ見つめた。
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