□02:揺らめく心
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飽きることなく窓から海を眺める芙蓉に、スクアードも彼女ごしに窓を眺める。

青い海は珍しくもなかったが、窓に映る女の厳しい表情に軽く眉をしかめた。


(…まあ、知らない世界からきたってんだから当たり前か)


不死鳥が戻れば済むことだ、と彼は軽く肩を竦めて自分の手元に酒を引き寄せて注いだ。


「……スクアード、さん」
「ん?」
「カリプソーに会った人はいない、って本当でしょうか」
「――…海の女神、海の魔女」


それは男にしてみれば唐突な質問だったが、笑うでもなくそれを呟き返した。


「そうだな、俺も海にいて長いがねえな」
「………」
「カリプソーだけじゃねえ、この世の神様なんてモン見たことはねえ」


トン、とグラスの横に酒瓶が置かれた。


「神なんて曖昧なモンは信じてねェ」
「………」
「だが、カリプソーはいる」
「……なぜ」
「肌でわかる、そいつぁ海に長くいりゃあわかる」
「………恐ろしいですか?」
「いいや」


ニッと笑った男の視線を真っ向から見つめる蜂蜜色の瞳。
ようやく海から視線が外れたことにどこかスクアードは満足した気分を感じながら言葉を続けた。


「カリプソーは何もしねェ、怖いのは人間だ」
「………」
「だが俺は海賊だ、恐れなんざに怯える暇なんかねえ」
「…グランドラインは、貴方を退屈させない?」
「ああ、きっとアンタも気に入る」


こんな楽しい海はない。
そう笑ったスクアードに、芙蓉の目が柔らかく細められた。


「さっきも言ったが、アンタはもう少し踏ん反り返ったっていいんじゃねえか」
「え?」
「あの不死鳥が、自分の我が儘で人間連れて来るなんざついぞ聞いたことがねぇ」


あいつは、イイヤツだけれども冷めている。

そう続けたスクアードは、ぐびりとグラスの酒を煽った。


「アンタが何を不安に思ったかは知らねェが、それだけ執着されたんならむしろ離してもらえねえ方を気にしたほうがいいんじゃねえか」
「あの、なにか勘違いをなさってません?」
「うん?」
「私とマルコさんは男女の仲では……」
「そうだな、あいつもそんなことは言っていなかった、だけどな」
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