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□04:嵐の夜に
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「なあに、大渦蜘蛛のスクアードと不死鳥マルコが揃ってんだ、負けなんてありゃしねえよ」
にっ、と豪快に笑みを浮かべた料理人に芙蓉が淡く笑みを返した。
「私は、隠れることも逃げることもできない足手まといね」
「その自覚があるなら、大丈夫だ」
「え?」
「自覚もねえのに縋り付く、そいつが一番タチがわりい」
ばさり、とまるでいま外では戦闘など起こっていない、そのくらい当たり前のように老人は新聞を広げた。
「少なくとも嬢ちゃんは、不死鳥の大事な『宝』だ」
「………」
「ま、大きく構えて待ってりゃいい」
芙蓉は噛み締めていた唇を解いて、再び料理に口をつけた。
顔色は悪かったが老人に向かって彼女はふわりと笑ってみせる。
「…このスープが一番好きだわ」
「おお、そいつぁ今日の一番の出来だ!」
どぅん、ワアッ。
時折激しい音に悲鳴が混じる。
ゴゥ、とつられるように潮風も勢いを増していた。
ギシリ、ゆらり、ゆら。
船の揺れが強くなり、次第に騒ぎはより大きくなる。
だが芙蓉と老人は、それを無視するように他愛ない話をしながら過ごしていた。
そして、唐突に。
ばたん、とドアが開く。
その乱暴さと、老人の目の鋭さから味方でないのは容易に理解できた。
むろん、先程まで共に食事をしていた人々とは違う、白い制服に武器を持った男を味方にはどうやっても見えなかったが。
「女と年寄りかっ…」
「ち、若ぇ連中は何してやがんだ…!」
戦いによる興奮のせいか血走った目がきつく自分たちを睨みつけるのを見て芙蓉はぞくりと背筋が凍るような気持ちを味わう。
そんな怯える女に僅かに眉を潜めた白服は怒鳴り声に近い声量で吠えた。
「投降せよ、さもなくば……!」
「人ン家の中でよまい言吐いてんじゃねえ!」
これが戦いか、と震える指先を隠すように女は手を握りしめた。
気を抜けばかちりと音を鳴らしそうな咥内とへたりこんでしまいそうな足を、心の中で叱咤して芙蓉は椅子から立ち上がった。