□04:嵐の夜に
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「! 動くなっ…」
「撃ちますか」
「………っ」
「嬢ちゃん!」
「怖い、なあ」


それは独り言だった。

声に出したつもりはなかったが、自然と零れ出ていた。
どくりどくりと早鐘のように脈打つ心臓とは裏腹に、ひやりとしていく体温。
それは極度の恐怖と緊張であることを芙蓉はよく知っていた。


重い右足と、痛みを思い出させる古傷。

そして、それを凌駕するもの。


「マルコさん」


名前を、呼んでいた。

ふわりと揺れるように彼女の前に煌めいた青に、知らずと芙蓉に笑みが浮かんだ。


「――不死鳥マルコッ!」


窓から現れた男に、尻ごむ海兵。
そしてドアから、さらに海兵。

普通に不利な事態に、それでも芙蓉は笑みを浮かべていた。


「無事かい、フヨウ」
「はい」
「まったく雑魚が多すぎて困るねい」
「あんたも窓からなんて入るから食材濡れたりしたらどーすんだ!」
「ああ、爺さん下がってそっちを頼むよい」


しれっと目前の団体を気にするでもなくマルコがいつものように応じれば、武器を構えた老人が呆れたようにハアと溜息をつく。
芙蓉はそのやり取りに、少しだけ下がった。


「怖かったら、目ェつむってろい」
「見てますよ」
「ふ、不死鳥マルコ、おとなしく――」
「さあて、お帰り願おうかねい」


ズ、と。
飄々とした態度も声音も変えることなくただ一歩進み出ただけで重さを増した空気に、マルコの度量が窺えた。
もう大丈夫なのだ、と芙蓉は奇妙なほどの安心感に包まれて前へと進む男の背中を見つめた。


そこからはもう、展開は早かった。
先に乗り込まれるという失態での戦いに一時は怯まずをえなかったスクアードたちだったが、相手の船に乗り込んで――どうやらその隙に幾人か、船の中に入ったらしい――指揮官らしい男を捕らえて決着がついたのだった。

スクアードの前にひざまづかされるような体制にされた海兵は確かに、芙蓉の目からも少しばかり身分が高そうに思えた。
聞けば海軍大佐らしいが、彼女はそれがどの程度の地位か量れずただ、そうですか、とだけ返した。
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