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□04:嵐の夜に
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スクアードの前にひざまづかされても尚、きつく睨みつけるその様は確固たる信念を持っているということなのだろう、と芙蓉は遠めにその男を見つめる。
ところどころ煤けていたり、キズがあったり、血の跡らしいものが見えるのは今さっきまでの戦闘がそれだけ激しいものだったからだ。
その男だけではなく、周囲のクルーたちも多かれ少なかれ傷や血の染みをその衣服に残し、厳しいほどの警戒を隠しもせずにいる。
それが怖くないかと問われれば怖いのだが、芙蓉はまるで感覚が麻痺したかのように気にもならなかった。
「言い残すこたぁ、あるか」
スクアードの死刑宣告のような言葉にも、誰もぴくりとも反応しない。
ピリ、と張り詰めた空気の中で海兵はただ搾り出すように声を発した。
「海のクズどもめ…!!」
スクアードの隣ともいえる位置にいたマルコはなんの感慨もなくそれを耳にして、ふい、と背を向けた。
「不死鳥マルコ、貴様のような化け物もいつか地獄に堕ちればいい……!」
「そうかい」
「正義は、貴様たちをいつか海に沈める……!」
つまらなそうにマルコは一瞥をくれると、かったるそうに口を開いた。
「あんたたちの正義なんざ、知ったことじゃねえよい」
ただ己の責任においての自由を満喫してるだけだい。
その付け足すように小さく言われた言葉は、歩み寄った芙蓉がかろうじて拾える小さなもので。
「マルコさん」
「うん?」
「食堂の窓でも直しにいきませんか?」
「……あー、そうだねい」
場にそぐわぬ、優しい声音と穏やかさにスクアードも振り向いた。
少しだけ、柔らかく目を細める船長に周りもようやく殺気立っていたのを納めた。
「そうだな、マルコとフヨウまでこれに付き合うこたぁねエ」
「ああ、じゃ、行ってくるよい」
並んで歩き出した二人が出ていったあとに、扉はパタリと閉じる。
何が行われるか、肌で感じないわけではなかったが二人は決して振り返ることはなかった。