□06:人生論
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ベッドに横たえた身体を起こした彼女は確かに朝食を運んだ時に比べれば顔色も良くなっていてマルコはひとつ安堵の溜息を吐き出した。


「なあ聞いてくれるかい」
「はい?」
「俺達はならず者で、奪う者で、嫌われ者だよい」


淡々と、事実を口にしてマルコはひたりと芙蓉の目を見据えた。
蜂蜜色の瞳が、怪訝そうに揺れたのを見て小さく笑いがこぼれた。


「それでもついてきてくれるよな」
「ええ」
「行く宛てがないから?」
「ねえ私、白ひげさんに娘だと名乗りたくてあなたに話したワケじゃないんですよマルコさん」
「ん」
「ただ、マルコさんに秘密にしたくなかっただけなんですよ」
「…ん」
「私を攫ったんでしょう?」
「ああ、そうだねい」
「私、あなたに攫われたの」
「…ああ、そうだねい」


顔を見合わせて。
どちらからともなく、笑った。

マルコがいつものマルコだ、とふうわりと笑った芙蓉はようやく人心地ついた気分だった。


「これからの人生、あんな戦闘くらいじゃすまないよい」
「でも、守ってくれるんですよね」
「ああ」
「隠れるくらいはしましょうか」
「必要ないよい」


マルコはベッドの端に腰掛けて、彼女の髪を優しく撫でた。


「オヤジには、話そう」
「え?」
「俺達って息子に加えて、娘が増えるだけだよい」
「…マルコさんたちみたいに立派な家族がいたら、私なんて」
「そりゃあフヨウの意見だろい?」


きっと喜ぶ。
そう言われて、芙蓉は泣きそうな面持ちを見せた。

不安がないわけではなかった。

いないと思った父は、生きていて――多くの人に慕われていて。
そこに自分の居場所など、求めてはいけない気がしていたから。


「俺ぁ、アニキにはなれねえけどよい、やかましい連中はたくさんいるよい」
「え?」
「俺とフヨウは、俺とフヨウだい」


笑ったマルコに、芙蓉の目から涙がこぼれた。
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