□07:邂逅
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ぜぇはぁと肩で息をするように怒った表情を見せるマルコが、どこか嬉しそうで。
芙蓉は床に座り込んだままそれを見上げてほう、とため息を一つこぼした。


(嗚呼そうか、この人たちは)


蹴り飛ばされた男が、苦笑しながら痛いと言いながらも彼に歩み寄り。
それを見ながら馬鹿だなあ、と笑う男がさらにマルコに歩み寄る。

何度と無く聞いた『家族』の中に、彼らの容姿が出てきたことを思い出す。


「マルコ、本当に無事でよかった」
「隊長が二人も離れてなにやってるんだい」
「別件で離れてたら、マルコが大渦蜘蛛海賊団に世話になってるっていうから俺たちが先に合流してやったのよぉ!」
「偉そうに言う前にちゃんと隊長らしくしてんのかよぃ、サッチ」
「ははは、そう言ってやるな。お前が行方不明になってから誰よりも頑張っていたと思うぞ」
「ちょっ…それ酷くねえか普段からちゃんとやってるだろうよ、ビスタ!」
「さてマルコ、我らが一番隊長殿」
「ん」
「あちらが、お前さんの『命の恩人』であるお嬢さんなら紹介して欲しいんだがな」


つい、とシルクハットを被った男――ビスタがゆったりと優雅な足取りで芙蓉に近づき、手を差し出した。


「さあお嬢さん、いくら甲板が日で温められていたとしても座りっぱなしは辛いだろう?」
「あ、ありがとうございます」
「フヨウ、紹介するよい」


立ち上がった彼女を招き寄せて、肩を抱くようにしてマルコは二人の男の前に芙蓉を立たせた。


「こっちのリーゼントがサッチ、4番隊の隊長。そっちのシルクハットが5番隊の隊長だよい」
「あの、芙蓉、です………」
「サッチだ、よろしくな可愛いお嬢さん!」
「ビスタという、覚えてくれれば嬉しいよ」
「マルコさんに、お世話になっています」
「さあフヨウ、ちょいと日差しが強くなってきたし部屋に戻った方がいい」
「え、でも」
「俺はちょっとこいつらと話があるからよい」
「…わかりました」


失礼します、とふうわりと笑みをこぼすようにして浮かべた芙蓉が背を向ける。
時折すれ違う男たちがなにやら声をかけては彼女が柔らかく返事をし、そうして甲板から姿が消えた。
それを見送ってから。

三人の男は、拳をごつり、と。
おかえり、という言葉は出てこなかった。
それはまだ、船に戻ってから。


偉大なる父の元に戻ってから。


それは暗黙の了解。
絶対とも言える、『息子たち』の気持ち。

だけれどそれに少しだけ、影が差していることをマルコは自覚していた。


(どうする、コイツらならば)


自分だけで悩んでも仕方がない。
信頼できる『兄弟』たちならば、もしかすればいい案もあるかもしれない。


「なあ、帰ってきた早々ちょいと相談があるんだがねぃ」
「ああ?お前が?」
「珍しいこともあるものだ」
「いや、フヨウのことだよい」
「ああ、あのお嬢さん」
「ちょっと意外だったな、お前の好みはもっと派手でボンキュッボンのナイスバディじゃなかったか?」
「サッチはうるせえよい」


はふ、とため息を一つこぼして。
甲板の端により、どっかりと腰を下ろせば二人もそれに倣うように座った。


「オヤジが、昔惚れた女がいたって話、お前ら聞いたことあるかよい」
「ああ……ジョズが聞いたことあるって耳にしたな」
「酒の席で一度だけ、だな」
「ビスタ、お前そのときいたのか?」
「あれは………相当前の話だ、マルコ、お前が荒れていた頃だ」
「………」


バツが悪そうに眉を寄せた男に、ビスタがクク、と喉で笑った。


「お前が女が原因で荒れて、偵察だの戦闘だのに明け暮れて船を何度も空けたろう」
「悪かったよい、若かったんだ」
「その折に、こぼすようにな」


本当に惚れた女は心底気持ち悪いくらい自分にしっくりくるものだ。
嗚呼コイツ以外なんてどうもできない。
そう思ってしまうものだ。
アホンダラの息子にもいつかは分かるだろうよ。


「そう笑っていた」
「それだけかい?」
「いや」


俺の惚れた女は今何処をほっつき歩いているんだか、と。
愛しそうに眼を細めた姿は、偉大なる白ひげではなく、一人の男の姿そのもの。


「オヤジもモテるってのに、一途なもんだな」
「まあ女が絶えたことがねえから一途っていっていいのか?」
「………」
「マルコ?」
「今から話すことは、誰にも言うな」


すっと声を少しだけ抑えた静かなその声に、二人の隊長の表情が厳しくなる。
それはマルコが重大な話をする、とわかっていたからこその気構えだったのかもしれない。
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