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□09:花
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マルコは部屋の鍵を念のために閉めて、やや早足で食堂に向かった。
向かった先には見慣れた男たちが陽気な笑みを浮かべて手を上げてくる。
「よォ、マルコ!」
「ああ……」
「フヨウちゃんは?」
「顔色悪かったからな、部屋で休ませてるよい……おいオヤジ、コーヒーもらいたいんだけどよい」
「嬢ちゃんに飲ませるなら今もうちょいイイモンにしてやるから待ってろ」
「おゥ」
「……あの爺さん、フヨウちゃんには甘くね……?」
「ふ、ふ……さしずめ今の彼女は、この船の花なんだろうさ」
「ビスタ?」
サッチの後ろで悠然と立っていたビスタは、サッチとマルコの視線に笑みを深めた。
「不思議な女性だな」
「……マルコ、異世界のオンナってのは皆彼女みたいに…その、なんだ、独特の雰囲気を持ってるのか?」
「……さぁねい」
ふい、と視線をずらしたマルコに二人は深く問うことはなかった。
ただビスタはあの海兵は小船で放逐された、とだけ言えば只、そうか、とだけ返される。
マルコからすればどうでも良い情報なのだろうとビスタは薄く笑って、兄弟を眺めたがそれ以上は何も言わなかった。
「――…フヨウちゃんにゃぁ、優しくねェ道、だろう、な…」
「そうかもしれないねい」
「どうでもよさげだな、マルコ」
「どうでもよかぁないがよい」
老コックから渡されたカップをマルコは受け取って笑った。
「俺ぁ、あいつを離す気がまるでねえからよい」
その言葉に目を丸くする二人を置いて、マルコはひらりと空いている片手をひらりと振って踵を返す。
それを目で追いながら、サッチが呟いた。
「…驚いた」
「そう、だな」
マルコの発言は例えば彼女がさまざまに追い込まれ廃人になろうともそれはそれで構わない、と。
勿論あの男の守れる範囲にあれば平気だろうが、要するにそこまで強欲になっているのを隠しもしない。
いくら兄弟の気安さとはいえ、いつもそういった面を無表情という仮面の下に隠すマルコがあっさりと言ってくることに二人は苦笑した。
自分たちに隠しもしない、公言したあれはマルコが開き直ったということであって。
彼女がどう思うのかはもはやそこには存在しない。
「こいつぁ、面白いなあ」
「あいつにもいい変化が訪れた、ということかな」
「俺たちにもなんかあるかねえ」
「変わりたいのか?」
「ん?」
サッチはビスタの問いかけに、クッと笑った。
「さぁ、どうだかな……マルコもわかっちゃいねぇだろうよ」
「ふ……」