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□11:優しい追憶
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じ、と見つめる男――白ひげ、エドワード・ニューゲートに目が離せない芙蓉の様子は他の船員たちには分からない。
遠くでオヤジがマルコたちと話をしているのだろう、きっと長男の帰参に今夜は宴に違いないという気楽な雰囲気がジョズの後ろの方で感じることが出来る。
ジョズは知らず知らずため息を吐き出していた。
前方は緊迫した雰囲気だし、後方はお気楽ムード、その落差は奇妙すぎる。
そのちょうど中間に立つ身としてはため息一つで済むのだから仕方ないと思いつつ、もっとその緊迫したものを感じているだろう兄弟にジョズは視線を向けた。
振り返ることは無い、その姿は戦闘でも幾度も見た姿。
だがそのマルコの手は、彼女としっかり繋がれていてそれが奇妙だと思ったものの正体なのだと気がつくまでにそう時間はかからなかった。
(マルコが女と手ェ繋ぐなんてなぁ)
マルコと彼女の関係はおいおい分かるだろう。
今は、何故だか沈黙を続ける白ひげのほうが気にかかって視線を向ける。
ジョズやシャーロットの疑惑の目、それからマルコの視線をまるで気にする様子も無く男はゆっくりと口を開いた。
「よくきたな、フヨウ」
「あ、の」
「おまえは、俺の、娘だな」
「え?」
「え、じゃあマルコ隊長のカノジョってことですか?」
その発言にシャーロットが驚いた声を上げる。
ジョズも驚きはしたがあのしっかりと繋いだ手を見ればそれもアリかもしれないな、と思う。
だが白ひげはそれらを軽く視線でいなして続けた。
「フヨウ、よく俺の下へ帰って来た」
「―――!!」
「来い、初めての親子対面だ」
もう少し顔を良く見せてくれ。
そう微笑んだ白ひげの顔は、柔和な父親の顔だった。
驚くジョズとシャーロットを尻目に、マルコがとん、と芙蓉の背を押した。
それでも一歩前へ出ただけで動けない彼女は、驚きの表情に青い顔色をしたまま立ち尽くしていた。
「わ、わたし」
「御託はいい、俺ぁ娘に会えて嬉しいと思った――お前はどうだ?」
「わたし」
きゅ、と握り締められた手の平には、マルコと今まで繋いでいた温もりがまだ残っていた。
「私、――どうして、いいか」
「此処に来い。お前が幻じゃねえことを、俺にも感じさせろ」
「どうして、私が、娘だって」
「間違えるわけぁねえ!」
グララララ!
愉快そうに、喉を鳴らして笑う男の目が細くなる。
「お前はアイツに良く似てる、それに――その目は俺と同じ」
金色に輝く目は、確かに同じ。
太陽の煌きのような男の目と。
蜂蜜のような甘さを持つ女の目。
同じ金でも印象がここまで違うものだなとマルコだけが冷静に二人のやり取りを見ていた。