□11:優しい追憶
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「アイツとの間に子供が出来てたらと思ってたが、――実際に目にすると、こうも愛おしいとは思わなかった」
「………」
「おめぇが近づかねぇなら俺から行こう」
「船長?!」


ぐ、と身を乗り出した男に芙蓉がビクリと身を竦ませる。
それを気にする様子も無く踏み出した白ひげが、ふわりと芙蓉を抱きしめた。


「愛する俺の娘だ、よく帰って来た――俺が父親の、エドワード・ニューゲート……俺が、父親だ」


焦がれた男。
会いたいと――幼い頃は守られたいと願った――そしていつの間にか、そばに居てくれないことに恨みすらした相手。

だがまるで壊れ物を抱くように、そうして優しく囁くような震える声は、確かに愛情を感じずにいられない。

ふるり、と芙蓉の体が震えた。


ぽたり、

ぽたり。


抱きしめる男の裸の胸に、こぼれる涙。



「私」
「ん?」
「私、なんか」


たくさんの家族に囲まれたあなたに
私のような小さな存在が

こんなに愛してもらえていたなんて知らなくて


ポツリポツリと涙に負けないようにと紡ぐ言葉は頼りない。
だが誰もそれを遮ろうとはしなかった。


「母は貴方を愛し続けました、死ぬそのときまで」
「そうか、もう死んじまったのか……アイツぁ死んだ今だって俺を愛しているだろうよ」
「ふふ」
「お前の今までは、アイツの思い出として持って言った」


生まれた後の愛しさ、育っていくその姿。
それはもう白ひげには見ることの出来ない彼女の思い出、彼女の過去。


「だが今から俺が死ぬまでの間は、今度は俺との思い出だ」
「………」
「あの世であいつと会ったときに、いい話題になるだろうよ」


髪を撫でる手はどこかおそるおそるだが、見つめてくる目は優しいものだ。
ずっとずっと、振り向いたときにその目があればいいのにと思っていたそんな眼差しが今此処にあるのだと思って芙蓉はぎゅぅ、とようやく白ひげに体を預けたのだった。


「マルコ」
「感動の親子対面は済んだかい」
「おめぇは聞いてたのか」
「ああ、白ひげ海賊団のキャプテンだってんで名乗るべきじゃないってずっと気にしてたんだよい」
「フン」
「まぁまだ船内には広めない方がいいねい、フヨウもまだ慣れてないしちょいと海軍とも接触しちまったから色々ヒミツにしておきたい」
「そいつぁ後で詳しく聞こう」
「スクアードも向こうで待ってるよい」


ふ、と離れた温もり。
だが直ぐに太い指が芙蓉の目元の涙を拭った。

ニッと笑みを浮かべられ、彼女も笑う。
それは誰が見ても不器用な父親と不器用な娘の他愛ないやり取り。


「当面フヨウの部屋は俺の隣でいいと思うんだけどよい」
「あァ?」
「俺の恩人、で通ってるンだから自然だろうよい」
「……まぁいいだろう、シャーロット、用意させて来い」
「え。あ、はい!」
「じゃあさっきの話をちょいとしてぇんだけどいいかい?」
「……ジョズ、」
「え」
「フヨウ連れて船内案内してやってくれ」


とん、と芙蓉が今度はジョズのほうへと背を押される。
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