□11:優しい追憶
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一瞬転びそうになる彼女をマルコがそっと受け止めて何事か言うと待たせて、ジョズに歩み寄った。


「ジョズ、今の話聞いてただろい」
「ああ」
「……」


マルコはジョズに小声で、彼にだけ聞こえるように呟いた。


「頼む、アイツのアニキになってやってくれよい」
「……お前は?」
「俺はアイツのアニキにはなれねぇ」


頼むよい、ともう一度念を押すように囁くとマルコはもう何事も無かったように背を向けた。
その背を僅かな驚愕で見送ったジョズは機械仕掛けの人形のようにぎこちない仕草で、そばに寄って来た彼女へと視線を向ける。


(オヤジの実娘。マルコの……?)


これは驚きの連続だ、とジョズは思わずにいられない。
そもそもこんないかついおっさんを兄と思えるものなのかとも思うがそれに彼女がどういう人物かも分からないのにと様々な思いが交錯する。


「あの?」
「あ、ああすまん……その、フヨウと呼んでいいのか」
「はい構いません」
「……無理に丁寧に話せとは言わないぞ、此処は海賊船でそんな上品なヤツはいない」
「あ、…クセみたいなものですから…」


気になりますか、と彼女が困ったように笑えばそういうわけじゃない、とジョズも困ったように返す。
二人で互いに困っている姿は正直滑稽で、どちらからともなく笑みがこぼれた。


「船内は広い。一日やそこらじゃあ案内しきれんな」
「それじゃあ、食堂とか入ってはいけない場所とか……そういうのを教えていただけたら嬉しいです」
「ああ、それなら」


なるべくゆっくり、彼女と話をしてみよう。
ジョズは優しげな表情だった父親と切迫した表情で自分に頼みごとをした兄弟を思い浮かべて、己もそんな風に彼女に心を砕けるのだろうか、とそんな想像をして笑みを浮かべたのだった。



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