□12:スノーフレークの君。
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「マルコさんから聞いたほうがイイのかもしれませんけれど」


向かい合うように座ったジョズと芙蓉は、そんな言葉で沈黙が破られた。


「荒唐無稽な話ですし、すぐには信じれませんが」
「……?」
「マルコさんは別の世界の私の部屋に飛び込んで来たんですよ」
「別の世界?」
「ええ」
「……それであんたの世話になったのか?」
「右も左も分からない世界ですしね」
「アンタもよくそんなおっさん世話する気になったなぁ」
「海の匂いがしたから」


笑った彼女の顔は、穏やかだ。
ジョズと彼女の間は、ひどく穏やかな雰囲気があった。

女性と話すなど得意では無かったジョズだったが、芙蓉の穏やかさと屈託の無さは有難かった。
無邪気にあれやこれや詮索するわけでもない、モノを欲しがる商売女のそれとも、女海賊たちとも違う、ただの優しい笑みを浮かべた女。


「母から父のことは聞いていたから、海のにおいのしたマルコさんを恐れる気持ちにはならなかった」
「…ん?」


別の世界からきた、ということになる彼女の言葉には疑問が浮かんだ。
それを問う前に、芙蓉がそれこそ困った、という顔をする。


「色々ややこしいのだけれど、昔母が父と恋をした、という結果私が生まれたの」
「……」
「母は自分の世界に戻ることがわかっていたらしくて、戻ってから私を身篭ったとわかって生むことにしたそうです」
「そうか」
「まさか父と会うことになってるとは思わなかったでしょうね!」
「そうだな」


さも面白そうに笑った彼女に、ジョズも微笑を浮かべた。
彼女の様子からすれば、父親である白ひげを海賊と知っていても拒否する様子は無い、それは彼にしてみても安心する要素の一つ。

海賊船には不似合いなほどの、繊細そうな彼女が妹になるのだ、と言われるとまだ微妙な気分ではあったが思ったよりもいやなものではないな、とジョズは笑みを浮かべたのだった。


「ジョズ隊長」
「……シャーロット」
「フヨウさんのお部屋の準備が済んだわ」
「そうか」
「ねえフヨウさん、同席してよろしいかしら?」
「はい、どうぞ」


しゃなりと現れた婦長の存在に、ジョズが軽く身構える。
別段白ひげの信頼を得ている婦長だけに不信感があるわけではなく、単純に苦手な人物としての身構えというものだ。

見た目はたおやかな美女だが、中身はどうして歴戦の海賊たちとひけをとらぬ猛者であることを知る故かもしれない。


「私はシャーロット、看護婦たちの長を勤めさせていただいてるの」
「改めて、芙蓉です」
「どうぞよろしくね」
「こちらこそ」


いたって穏やかな挨拶風景だが、シャーロットは芙蓉をしげしげと見つめていた。
恐らくは白ひげの娘というのを見定めしているのだろうとジョズは思うが、止めることも出来なかった。
今すぐとは行かなくとも彼女が白ひげの娘と公表されれば、これからもその目に晒されるのはどうしようもないのだ。
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