□14:関係性
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「それじゃ、こっからは言いたくなかったらそう言って」
「……ええ」
「貴女、足を引きずってるらしいわね」
「ええ」
「どうして?」
「事故に遭って、腰を強く殴打したせいで神経を傷めたの」
「それじゃあそれが痛むことは?」
「痛むことは無いけれど、ここに来る前にかかっていた医者にはこれ以上良くなることは無いって言われているわ」
「そう、じゃあソレに対して処置が必要なことは今のところ無いのね?」
「そう……だと思うわ」
「あ、それと生理周期が不定期だって言ってたけど今月は来たの?」
「えーと……うん、来てた、かな……」


キャリーは再び書き込む仕草を続け、バインダーをぱたり、と閉じた。
そしてにっこりと笑ってありがとう、と芙蓉に告げると立ち上がる。


「とりあえず、貴女の生理用品とか少し持ってきておくわ」
「ありがとう」
「化粧品とか、欲しい色があったら少し分けてあげる! 次の島に着けば、新しいのをマルコに買ってもらいなさいな」
「ふふふっ、ありがとうキャリー! でもね、スクアードさんたちに買ってもらった化粧品がまだあるから」


ありがとう、と穏やかに告げる彼女に、キャリーがつ、と一歩だけ歩み寄った。
そして囁くように、緩く目を伏せて――


「――ありがとう」
「…え……?」
「マルコを、救ってくれてありがとう」
「キャリー?」
「マルコは、みんなの期待を裏切らない……実力があるし、実際ソレをこなせるから」
「………」
「『白ひげの一番隊隊長、不死鳥マルコ』で居続けるのは、きっと大変」


でもそれをかなぐり捨てていられる場所があるのであれば、それに越したことは無いのだ。
その肩書きに惹き付けられることも、それに鼓舞される人々が居ることも分かっているし彼らを否定することも無い。
だけれども、マルコもまた――マルコ個人を思えば、それがどれほどの重荷なのだろう、と彼を思う人たちからすれば辛いこと。


「だから、……ありがとう」
「キャリー」
「うふふ、また宴でね!」


お友達になりましょうね!
そう朗らかに言ってあっという間に姿を消したキャリー、そしてその彼女が出て行ったあとにしまったドアを見つめて、芙蓉は曖昧に、笑ったのだった。


(私には何が出来るのだろう――何もしないのが、今一番、かしら)


下手な行動をするよりも、まずはモビーディックの内部で認められて生活をすること、それが第一なのだろう、と思い直して芙蓉は口元を引き締めた。
同時に、ありがとう、と囁くように万感の思いを込めて泣きそうな顔をしていたキャリーがいとおしい、と思う。


(お友達に、か)


ぽっと心が、あたたまる。

娘と認めてくれた父親、家族を迎えようとする人――サッチや、ジョズ、これから増えていくのかもしれない――、友達になろうといってくれたキャリー。

そして、いつか全部、と獰猛さを見せながら紳士的に振舞った最愛の人。


(なんて幸せなのかしら!)


まだこの船に来て初日だというのに、こんなに幸せでは後が怖い、と引け越しになる自分に笑みがこぼれる。
だが芙蓉はこれがずっと続くわけではないこと知っていたし、これ以上の幸せもきっと得られることをやはり知っていたのだった。
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