□14:関係性
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その頃、マルコは自室に戻るや否やドアに背を預けてへたり込むように座り込み、己の顔を手の平で隠すようにして深くため息を吐き出していた。


愛の告白めいた言葉、傲慢に全部貰うという宣言。
今はまだする気は無かったというのに、思わず彼女がまっすぐに見つめて愛を囁く嘘をつけ、などと挑発するから抑えが効かなかった。

真っ直ぐな視線で、どこか確信めいていて、彼を求める目で見つめられたのだ。


(ああ、もう!)


手放せない手放せない、と何度も思っていたがハマっていくのは自分だけのような錯覚。
それがどこか悔しいのに、楽しくて仕方なくてマルコは赤くなった頬がいまだ熱覚めやらぬことにため息を再び吐き出した。


「俺も若いねい……」


今まで隣で寝ていた彼女が、今度は隣の部屋という距離を隔てた場所に変わった。
それなのに心の距離はどうだろう、少なくともスクアードの船の部屋に居た時よりも近づいた気がする。
確実にマルコは彼女に恋情を感じていたし、それを認めてもいたし、手に入れると決めたからには彼女の彼を求める気持ちが孤独感から来た誤解だとしてもかまわなかったし、むしろ便乗してもいいだろう、くらいだった。

だが自分で宣言しておきながらやはりもどかしいのは仕方が無い。
掠めるようにしてしまったキスも、精一杯の自制心だった。


熱も交わさない、そんなまるで子供の戯れのようなキスだったがそれは甘さを伴っていたような気もする。


「はぁ」


何度目かも分からないため息を吐き出して、宴の前までにどうかこの頬の熱が引きますように、と男は思わずに入られなかった。

宴の折には彼女のそばにずっといるわけにもいかないが、宴会場まで彼女を送るくらいは許されるだろう。
その時に、自分たちの関係が男女のソレだと思われても彼はかまわなかった。
芙蓉も気にしないだろうということはもうマルコにも分かっていたのでむしろそうなってしまえばいい、とも思う。

単純に自分たちの関係は割り切れないが、それでもそれに近いのだから、と思うとどこか満たされる気持ちだった。


恐らく宴会所に着きさえすれば、白ひげが彼女をそばに置きたがるだろうしそうなれば周囲の連中も下手な真似は出来ない。
なるべく彼女が実子であることは伏せておいて欲しいと話してあるしそれは白ひげも了承していたが、ずっと離れていた娘のそばにいたいと思っているであろう父親がそう簡単に手放すとも思えない。


「まったく、難攻不落のオヤジだよい」


だけれども、それもいとおしい。
我が家に帰って来たのだ、とじわじわと、マルコのなかで実感が湧いてくる。


幸せだな、と思った。

敬愛する父親、帰参を喜ぶ家族たち――そこに、愛すべき女まで見つけれたのだから。


どうも道は平坦ではないが、そのほうがずっと面白いに違いない、とマルコは口の端だけをあげるようにして笑ったのだった。
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