□14:関係性
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マルコと芙蓉がそれぞれの部屋でそれぞれに過ごしていると、時間はあっという間に過ぎていった。

ちなみに芙蓉の部屋には大きなクローゼットが置かれており、そこには宝石箱まで設置されていたり立派な鏡台やベッドが設置されていて改めて部屋を見渡した彼女が呆然としたのはまた別の話でもある。


「フヨウ、そろそろ甲板に行くよい」
「あ、マルコさん」


軽いノックの後にかけられた声に不覚にも芙蓉の心臓がとくり、と跳ね上がる。


「お待たせしました」
「大丈夫かい?」
「思いのほか部屋が立派にされていてびっくりしましたけど」
「あー、……オヤジなりに色々考えちゃいると思うからよい」
「ふふ、質素なもので別にいいんですけどね」
「相変わらず欲がねえよい」
「欲だらけですよ」
「そうか?」


びっくりしたように聞き返すマルコに、芙蓉はただ穏やかに笑っただけだった。
昨日までと変わらない距離、変わらない会話、それなのにどこか近づいた心の距離を二人は確実に感じていた。
それがどこか、くすぐったかった。

そしてとても、温かかった。


「多分フヨウが見たことも無いようなドンちゃん騒ぎだろうからよい、俺ぁずっとそばにはいられねェけど……」
「大丈夫、キャリーとか……その、お、おとうさん……とかのそばに、いるから」


おとうさん、と酷く小さく呟くように言ったのを拾い上げて、マルコはそっと微笑んだ。


「その言葉、早くオヤジに言ってやれよい」
「だって、ヒミツ、でしょ?」
「大騒ぎになってりゃぁ、聞こえネェよい」
「そ、かな」
「きっと喜ぶ」
「でも、まだ、ちょっと……恥ずかしい」


少しだけ頬を赤く染めてそういう彼女の歩調に合わせてゆっくり歩いていたマルコは、ふと足を止めた。
それを不思議に思ったのか、芙蓉も歩みを止めてマルコを見る。


「なぁフヨウ」
「……なぁに?」
「さっき、キャリーって、言ったか?」
「え? ええ」
「……そ、っか」
「どうか、したの?」
「いや、キャリーはいいやつだよい」
「そう、ね」


歯切れの悪いマルコに、どこかずくり、と疑問と痛みとが同時に生じる。
だがどこか熱っぽく見つめられればそれはすぐに掻き消える。


「さぁ、ほら聞こえてきた――あいつらの、バカ騒ぎが!」
「ああ、ほんとう、なんて賑やか」


まだ甲板まで距離が少しあるというのに聞こえてくる陽気な笑い声。
それに釣られるように二人も、お互いの顔を見合わせて笑ったのだった。




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