□18:その存在、
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急かされるようにして着替えてきた芙蓉は、ロング丈のシフォンワンピース姿だった。
彼女からしてみればずぶぬれの体から急いで衣服を取り去って下着まで変えて、さらに急かされる勢いでさっと身にまとっただけだったが場違いには違いないと理解もしていた。
マルコにそんな事情と心情は伝わるまいと思いつつ、お待たせしましたと告げれば彼はなんでもないように頷いていた。


「さぁオヤジんとこ行くかねぃ」


マルコからすれば、芙蓉はいるだけでいいのだ。
そんな彼の心情もまた彼女には伝わらないのだった。


ばたばたと行き交うクルーたちの間をすり抜けていけば、時折先ほどの事情を知っているらしい男たちが芙蓉にありがとうな、と声を掛けてくることもあった。
それに応じる暇も無く、マルコに促されて芙蓉にしては早足に船内を歩いていく。

途中息が上がった彼女をマルコが抱き上げようとしたのは丁寧にお断りして二人はようやく白ひげの部屋へと辿り着いたのだった。
そして一声掛けて中に入れば、そこには嵐などものともしていないのであろう男の姿とそのそばに控える幾人かのナースの姿――デルフィニウムとキャリーもその中にいた――があり、そして苦い面持ちのままでいるジョズの姿もあったのだった。
グララ、と白ひげが小さく笑ってぐびりと樽を傾ける。


「フヨウ、遅かったじゃねえかあ」
「……着替えに、手間取ってしまって」
「そうか、まぁ近くに来い」
「………」
「ほら行くよい」


手招きされて戸惑う彼女を当たり前のようにマルコが繋いだ手を引っ張って行く姿にキャリーが微笑ましそうににっこりと笑うのと対照的に、デルフィニウムが敵意を隠せない視線で少し高いところから二人を見ている。
白ひげは二人が近寄ってきたのを確認して、ジョズのほうへと視線を向けた。


「ジョズ、おめェもそろそろそんなシケたツラぁしてやるな」
「生まれつきだ」
「グララララ、まぁそういうことにしておいてやってもいいが……」
「ジョズ隊長が怒るのも無理ありませんわ、だって誰が見たって無茶だもの!」
「デルフィニウム!」
「嵐の中に飛び出して、今回は上手く助け出せたようだけど失敗すれば被害者が増えただけじゃない!」


どうやら自分の行動はすでに知れ渡っているのだ、とわかって芙蓉は眉を八の字にして曖昧に笑ったのだった。
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