金色のガッシュ

□last for you
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『恋人同士』になったのならば、必然的に肉体関係だって持つことになるだろう。
それが嫌なわけじゃない。
触れられたいし、触れたいとも思っている。
実際今までに何度も肌を合わせてきたし、与えられる快楽と愛情はガッシュをますます愛しい存在にさせた。



でも、行為の最中にふと思うことがある。

『俺を信じろ、ガッシュ!』

『俺が、なんとかしてやる』

そんな風に過ぎ去った王を決める戦いの中で、お前は俺に惚れたという。
今でもよく、あの時の俺がどれほどかっこよくて、堂々としていたかを熱っぽく語られる。全く、恥ずかしいヤツだ。

しかし、そのたびに俺は、チリッと胸を焦がされるような感覚をかすかに抱いていた。




プツ、と唇の皮は限界を迎えて切れた。
瞬間口の中に広がった鉄の味を気にしている余裕はなく、迫ってくる快楽の波に呑み込まれないように必死で意識を保つ。

しかし唐突に、下半身を弄んでいた手の動きが止められる。
快感に息を詰めていた俺は、クラクラする頭に酸素を補給した。

荒い呼吸を繰り返す俺の両頬をガシリと挟み込んだのは、血相を変えたガッシュであった。

「清麿、血が出ておるではないか!」

そう言われれば…唇がピリピリと痛む。
溢れてきた血を舐めとろうと舌を出したが、それよりも素早くキスをされた。傷口をいたわるように舐められる、触れ合うだけのものだ。

「清麿…お主がこうやって唇や指に怪我を負うのは、何度目かのう」
「さあ…2、3回くらいか?」

恨みがましいような声色を軽く受け流して答えると、違う!もっと多いのだ!と怒りながらも悲しそうに喚かれる。

「どうして…どうして声を我慢するのだ?」
「………」
「私は清麿が痛い思いをするのはいやなのだ」

ガッシュの大きな手に前髪を優しくかき上げられる。
見上げた瞳は酷く辛そうで、俺がこの表情にさせてしまったんだと思うとひどく罪悪感を感じてしまう。

「しょうがないだろ…」
「しょうがなくない」

「うるさい!俺は…お前にみっともない姿見せたくないんだよ!」

かっとなって怒鳴った後に後悔した。

言ってしまった。
せっかく自分ひとりで抱えていようと思っていたのに…。

案の定ガッシュは首を傾げて、俺の言動を吟味していた。

「みっとも、ない…?」
「忘れろ」
「それはできぬな」

ふいと顔を背けた俺の顎を掴んで引き戻したのは、真剣な面差しのガッシュだった。

「しっかり、たっぷり訳を訊かせてもらおうぞ」
「え、ちょ…っひあ!?」

中断していた愛撫をいきなり続行され、背筋がびくりと跳ね上がった。
しかもそれは先程までの気遣うような優しげなものではなく、あまりにも性急に快楽を駆り立てる荒々しいもので。

また唇に歯を立てようとしたが、口腔内に入れられたガッシュの親指のせいでそれは叶わなかった。

「んんぅ…、ふああ!うっ」

指は水音を響かせながら口腔内をかき混ぜ、舌までもを愛撫した。口端から溢れる唾液を気にする間もなく、身体の限界はどんどん近くなってくる。

絶えず蜜を溢れさせる先端に爪を立てられて、果てた。
頭が真っ白になって、閉じられない口からは嬌声が上がる。


でも、やっと解放された。
そう思って気を抜くと、まだイったばかりだというのに直ぐに襲ってきた快楽に涙が出た。
精を吐き出したばかりの過敏なそこを、容赦なく責め立てられる。


「ああっ!や、がっ…しゅぅ…!ちょ…と…まっ」

神経を直接逆撫でされるような愛撫は理性を焼き焦がす。

気持ちいいというよりは、怖い。

自分が自分でなくなってしまうような甘い衝撃に、少なからず恐怖を覚えた。
声はひっきりなしに上がるし、手足の震えはとまらない。
耳を塞ぎたくなるような淫らな水音は聴覚をおかしくさせる。

「やだ…っ、やぁあ!も…はなせって…っ!あぁ!」

怖い。

恐る恐る目を開けると、熱を帯びた眼差しとぶつかった。

見られている。
媚態を、涙を、快感に溺れる体を、全部。



「見ん…なよぉっ!見ない、で…がっ、しゅ…!」


カッコ悪い自分に、ガッシュは幻滅しないか?
喘いで涙を流す自分は、ガッシュの目にどう映るんだろう。

少なくとも、昔の俺とは別物だ。
だらしないところも、恥ずかしいところも、こんなに全てを晒すような行為で、ガッシュはどんな俺を暴いたのだろう。

コントロールできない身体が悲しくて、嗚咽する。
そうして伝った一筋の涙を気遣うように舐めとったガッシュは、俺の前髪をかき上げて額にキスをした。

「お主は、セックスが悪いことだと思うのか?」

次は目尻に。

「清麿は、私の手によって乱れてくれているのだ。私と、快楽を共有してくれているのだ」

次は、頬に。

「…こんなに、愛おしいことはない」



ひたりと、自身に添えられたのは努張したガッシュ自身だった。
その熱さに驚いて、でも嬉しくもなった。

同時に扱かれると、相手の熱が脈打つのがよくわかる。


「だから、安心して気持ちよくなってほしいのだ」


シーツを固く握り締めていた両手を、ガッシュの背中に回した。

するとそれ以上の力で抱きしめ返されて、胸に収められる。
高い体温に包み込まれ、余裕のない息づかいを感じていると、不思議と安心した。

ここでなら、この腕の中でなら、どんな自分でいてもいい気がする。
みっともない姿だって、受け止めてくれる気がする。


縋りつくように背中に爪を立てれば、名前を囁かれた。

「清麿」

「清麿」

「愛しておるぞ」


じわっと染み込んでくる甘やかな声に、理性は崩壊する。

おれもだ、と返した瞬間に押し寄せた大きな波に意識は呑まれ、俺はすべてをガッシュに委ねることにした。





++++

「喉が痛い」
「はいなのだ!」

慌てて冷蔵庫からミネラルウォーターをつぎにいくガッシュ。

「目もヒリヒリするし」
「はいはい」

濡れタオルを差し出される。
無論、満面の笑みで。

「おい…お前なんか変だぞ?」
「そんなことないのだ」

あやしい…。

朝っぱらから鼻歌を歌っているし、にこにこと上機嫌すぎる。

じーっとガッシュを観察すると、首の辺りにいくつかの赤い痕がくっきりはっきり残っている。
つまりキスマークな訳で…。


「ゼオンやブラゴにしっかり自慢してこようぞ!」
「なっ……!」

なに考えてんだ昨日の俺!
後悔しても時遅く、とにかくあれを周囲に晒す訳にはいかないと、急いでタートルネックの服を探したのであった。





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