金色のガッシュ

□Merry after Xmas
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2010クリスマス小説



「メリークリスマスなのだあ!」

「……セールスならお帰りください。クリスマスが終わった今、これからは正月です」
「わっ、ちょ…ちょっと!ヒドいのだ清麿!」

時刻は日付をまたぎ0時45分。金髪と妙にマッチするサンタコスチュームの怪しい男がやってきた。

「きいよおおまあろおお」
「だーっ!うるせえ騒ぐな近所迷惑だろーが」
「清麿の声の方が響くのだ」
「はあ…、まあ上がれ」
「おじゃましますなのだ!」

いわゆるケーキ屋のバイトとしてクリスマスシーズンに絶大な人気を誇るガッシュは、去年一昨年とまったく同じようにクリスマスを過ごしていた。
23〜25日に掛けてはあの輝く笑みでケーキを売りに売りまくり、やっと騒ぎが収まった25日の深夜…つまり26日に俺の家に転がり込んでくるのだ。
なぜかクリスマスを女と過ごそうとしないガッシュは、本当にに勿体無いやつだと思う。

「さ、清麿!今年の戦利品なのだ」
「おお…!今年は一段と凄いな」
「ふふー。清麿のために店長にお願いしたのだ」

定番の純白のショートケーキ、チョコレートケーキ、ブッシュドノエル、マロンケーキ…。
ガッシュのバイト先の売れ残ったケーキ達がどんどんと置かれていく。
部屋に充満する甘ったるい匂いに心がわくわくと踊る。

「いつ見ても…この光景は異様なのだ…。清麿、食べ過ぎには注意して…」
「分かってるって!いっただっきます!」

先ほどまでガッシュを邪険にしていたことをすっかり忘れて、目の前のケーキの山に取りかかる。

そう、俺は大の甘党だ。
でも男子高校生がしょっちゅうホールケーキをがし食いするわけにもいかず、この26日という日本でもっともケーキが安い日に解禁することにしているのだ。

ケーキを切り分けることもせずフォークで食べ進める。
ガッシュは甘い物が嫌いなわけではないが、申し分程度につつく程度だ。

「食べないのか?お前が持ってきてくれたやつだし」
「いや、いいのだ。ここ連日ずっとケーキを見ておったから、もう胸がいっぱいで」
「そうか」

羨ましい職場だ、と呟くと苦笑いされた。

「それに、私は清麿を見ているだけで十分なのだ」

ジジ臭いこと言うなよな…と言おうとしたが、不意に近付いてきた手に驚いて言葉に詰まった。
正確に言うならば、その指先の仕草に。

さも当たり前のように口元に付いていただろうクリームを拭われて、ガッシュは流れるような所作でそれをペロリと舐める。

「甘いのう」

笑みを零したその口元から覗く赤い舌に、目を奪われた。
少し、背中がぞくりとする。

気を紛らわすようにひときわ大きな塊にかぶりついたら、口の周りに白いひげがべっとりと広がってしまった。

それを見てか、先程の蠱惑的な笑みとは打って変わって豪快に笑ったガッシュは付属のナプキンを差し出しながら、なぜか俺の頭を手を乗せる。

「お前…俺のことガキ扱いしすぎなんだけど」
「甘い物を食べてるときのお主が可愛らしいのだ。頭を撫でたくなってくる」
「俺はお前の弟じゃないぞ」

ガッシュは俺の頭を撫でつつも、口をきれいに拭う。
俺はなんでか、抵抗する気は起きなかったのでされるがままになっていた。

「別に、私は清麿を子供扱いしているわけではない」
「嘘付け」

「嘘ではないぞ。私は清麿を恋人扱いしたいのだから」
「はいはい、恋人恋人…って、ええ!?」

せっかく取って置いたイチゴを、驚いてすぐに飲み込んでしまった。ああ…もったいない。
じゃなくて!

「恋人?」
「うぬ、恋人だ。本格的に清麿を恋人扱いすることを許してくれるのなら、ケーキ屋のバイトはやめるのだ。イブイブも、イブも、クリスマス当日も、ずっと清麿と過ごそうぞ」
「…ケーキは?」
「ケーキも買う。街中のクリスマスケーキを一緒に買いに行きたいのだ」


ガッシュが、クリスマスに俺のそばにいる。
きっとクリスマス以外にもずっと居てくれる。

それは、とっても素晴らしいことに思えたんだ。



「…なら……いいかも」
「え…?」
「恋人扱いも、悪くない」

「…っ!清麿!!」
「うあっ!?」


明日の26日は何をしよう。
煌びやかで、でも人のめっきり減ったクリスマスの商店街を二人で歩いてみたいと思った。


Merry
After
Xmas
!!




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