金色のガッシュ

□お義父さんといっしょ
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清麿視点



過去に、一度だけ家出したことがある。

たかだか中学生の身分ではそう遠くにはいけず、友人の家に泊まったり、学校近くの公園や最寄り駅でフラフラとしていたら補導された。
漠然と、思う。
俺は世界でたったひとりの、天涯孤独の身なのだと。
母亡き後、肉親はいないし、再婚相手の家にいつまでも居座ることはできないだろう。何ていったって、赤の他人なのだから。

交番のパイプ椅子に投げやりに座っていると、義父が車で駆けつけた。

殴られるかな。
恐る恐る顔を上げれば、何も言わずに車に乗るように促された。車内でも、重い沈黙は守られた。



そのまま何事もなく家につき、二日ぶりの自室に逃げ込んだ。
このまま寝てしまおうとベッドに突っ伏すと、突然ドアが開いた。
神妙な顔つきで入室される。
明るい電気の下で改めて伺う表情は、珍しく目の下に隈ができていているし、全体的にやつれていて今にも倒れそうだ。

「清麿、私は別にお主を怒ってはいない」
「………」
「ただ、悲しいのだ」

ゆっくりと近付くと、突然俺を抱きしめた。
二度目だった。葬式のときと、今この瞬間。日向ような、太陽の匂いと体温に体が包まれた。

「私の、息子でいてくれ」
「………っ!」
「私はまだ、お主の父親でいたい!」


うん、と頷くと泣きそうな笑顔が視界に飛び込んでくる。
そして次の瞬間は、頷くとべきではなかったと激しく後悔した。


だって俺は、この瞬間。
親父に、恋をしてしまったからだ。











三年後。


「で、結局。親父さんに無理やり別れさせられたのだろう?」
「…お前のせいだろ」
「清麿の為だ。…自分の気持ちに嘘をついてまで、童貞捨てたかったのか」
「うっ…」

デュフォーの指摘に息が詰まった。
だって、おかしいんだ。まるで病気だ。
男を好きになる時点でおかしいし、年の差もあるし、なにより義父だ。血のつながりこそないが、歴とした親子関係にある相手に惚れるなんて…。

「ちゃんと女をしったら、気持ちも落ち着くと思ったんだよ。悪いか!」
「親父さんに嫉妬してもらいたかった癖に」
「!」

自分の気持ちは認める。
でも、親父は完璧に俺を『息子』と認識しているのだ。嫉妬…というより、愛息子を心配しているだけ。

「親父は…純粋に、家族愛が深いだけだよ。嫉妬とかは、ない」
「そうなのか」
「そういうもんだ…って、やべ!8時じゃん!俺帰るわっ」

高校生にもなってありえない門限も、親父が俺と夕飯を食べるために決めたって知っているから許せる。

「送る、清麿」
「…俺は男だ」
「知ってる。でもお前に何かあったら、俺が親父さんに殺されるからな」
「あのクソ親父…っ」

親友のデュフォーを通して俺を見張らせるのを、いい加減にしてほしい。(それもこれも、中学時代に痴漢にあったせいだ!)



「そうだ、既成事実を作るのはどうだ」
「は?」
「酔わせて押し倒したら、向こうから迫ってくる。絶対。それがいい」
「…頭に蛆でも涌いたか」

ニヤリと笑うに呆れる。
既成事実って…そんなことできる訳がない。それに、俺を息子のように思ってくれていることへの裏切りになるだろう。
親父に、嫌われてしまう。



「お前は、もう少し大胆になるべきだ。それに、きっかけがないと親父さんも腹をくくれない」

俺をマンションの前まで送ると、デュフォーは意味深な言葉を残しては去っていった。



「酔わせる…か」


とにかく、早く帰ろう。
飯が冷めて拗ねた親父を宥めるのは、なかなかに大変なのだ。




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