金色のガッシュ
□お義父さんといっしょ
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揺れるパパ視点
ニヤニヤしながら書斎に戻ったゼオンに、悪い予感がしたのは経験からだ。腐れ縁とは本当に厄介なもので、こちらの動揺を悟ったゼオンは、さらに煽るように笑みを深める。
「…何をしたのだ?」
「ふふ、ちょっとした人助けさ。俺はもう帰るとしよう」
引き継ぎは今日中に済んだが、てっきりこれから飲んでいくのだと思っていた私は拍子抜けした。
さっさと書類を鞄に詰め込んで、足早に出て行こうとする背中。それが微かに震えているように見えた。…まるで、痛みをこらえる様に。
思わず肩に手を伸ばしたが、するりとかわされる。
「ゼオン?」
「…清麿が、下で拗ねていたぞ。早く機嫌を取ることだな」
振り向いたのは、不遜な笑みを浮かべるいつもの彼だった。
慌ててリビングに降りると、ソファの上でぐったりしている清麿がいて、心底驚く羽目になった。
その傍らには、ゼオンが持ち込んだオレンジベースの酒瓶…。
ゼオンめ、こういう事か。
「全く、未成年になんてことを…」
私は酒に弱いというか…酒癖が悪く、飲食に関しては自粛しているつもりだ。当然のごとく我が家にあまり酒類はなく、清麿も健全な生活を送ってきた訳だった。度数の高い酒に、耐えきれる筈がない。
むにゃむにゃと、気持ち良さそうに微睡んでいるのを邪魔するのは心苦しいが、風邪をひいては大変だ。
「こら清麿、寝るなら自分の部屋に行くのだ」
「む…、ぅうーん?」
肩を支えて立たせても、くにゃりと膝が曲がる。どうにか清麿を背中に負ぶるのに、だいぶ時間がかかってしまった。
体で、息子の成長を感じた。
最初会った時は、柔らかくて白くて細くて、こんなんで生きていけるのかと心配したのに…。
いつの間にか、細身ながらも筋肉が付いてきた。
若く、しなやかな体付きになってきた。
子供の成長を懐かしみ、しみじみとした気分になる。
しかし、ここにいきなり邪念が生まれた。
き、清麿の…、息が。
首に、かかる…っ!
酒気を帯びた熱っぽい吐息は、そこはかとなく甘い気がしなくもない。
それだけでむず痒い気持ちになるのに、時々耳に囁かれる艶っぽい呻き声に、いちいち反応してしまう。
「拷問だ…」
親心と、下心。
二つの心を行ったり来たり、揺れ動きながら、えっちらおっちら階段を登る。108つある煩悩を、一段ずつ踏みしめるように。
やっと息子の部屋に着いて、ほっと安心する。
そーっと、腫れ物を扱うようにベットに体を下ろし、そして…
「っ!!」
息を呑んだ。
うっかり、顔を見てしまったからだ。
悩ましげに寄せられた、気の強そうな眉。
赤く蒸気した頬。
軽く開かれた、唇。
あくまでも無意識に。
むしろ本能で。
私は、清麿に口付けていた。
噛みつくように熟れた唇を味わうと、熱に浮かされたように思考がぼんやりと曇ってきた。
欲望のまま舌を入れて口腔をかき混ぜると、いやいやをするように清麿の身体が捩られる。
閉じられた睫毛が、震えた。
そして、ぱっちりと開かれた。
多分、この時まで私の理性のリミッターは外れていたのだと思う。
正気に戻った私の全身の血はさぁっと急降下した。
何をやってるんだ自分は?
息子だぞ。私の息子だ。
大切な、大切なあの人の忘れ形見だ。
なのに、どうして…?
自分の行動が信じられなくて、清麿を突き放そうと、肩に手を掛ける。
しかしそれは叶わなかった。
強い力で、抱きつかれたからだ。
「おやじっ…、おやじっ!やめんなよ…」
「きよ…まろ、」
「何で!なんでだめなんだ…おれじゃ、だめ?だって…だっておれ…」
縋るような、懇願。
訳が判らない。
目がぼんやりしているし、酔っ払いのたわごとかもしれないけど。
でも、確かに私を呼んでいる。
「だっておれ…おやじが好きだ」
もう一度、唇を合わせる。
しかしそれは清麿からで、子供のように拙いものだった。
ああ、朝なんか来なければいいのに。
明日、いや今この瞬間から、
私は、息子を息子として見れなくなるだろうから。
いや、そんなこと、今更なのかもしれないが。