Drrr!!

□というのは、嘘
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真っ赤な夕日に照らされた真っ白な病室。臨也はなぜかまるで病人のように、ベッドで横になっていた。
目に見える怪我は何もない。
新羅からの呼び出しメールで焦って駆けつけた俺は、ひとまずその状況に安堵した。一瞬だけだったけれど。



「ごめんシズちゃん、俺、目ぇみえなくなっちゃった」

ふざけんな、からかってんじゃねえと思った。実際にそう口にも出した。
でも臨也は、寂しいそうに笑うだけだ。いや、笑っているのに寂しそうに見えた。
臨也の赤い瞳は開かれてはいるものの、どこか濁っている。

「これは俺の想像だけれども、シズちゃんは今俺の目を見てる。少し色が変わっただろ?しょうがないよ。遺伝なんだ。わかってたんだよずっと」
「わかって…た?」
「うん。でもこんなに早いとは思わなかったな。もう少し…」

もう少しシズちゃんの顔くらい拝んでいられると思ってた。

「ホント、予想外だよ」
「…日頃の行いが悪いからだ」
「ふふ、そうなのかな」

むくりとベッドから起き上がると、ゆっくりとこちらに向かって手を伸ばし始める。
でも伸ばした先の方向は僅かにずれていて、俺は、やりきれずに伸ばされた手の先に移動した。

「ありがとう」
「……別に」

「シズちゃんが今怒ってるのか、笑ってるのか、わかんないよ。もしかしたら今俺を殺そうとして、病院のベッドを持ち上げてるかもしれないのにね」

たしかめさせて、とつぶやくと、そっと俺の輪郭を辿る。
唇の形を確かめて、頬を撫でて、そして気づかれた。

「わぁ、ホントに予想外も予想外だよ。歓喜の涙ってやつ?それとも同情…」
「うっせぇよ!!」

だまれ、だまれ、だまれ。
だまれよ、臨也。

「てめぇだって、俺と同じ表情してるくせに…」

俺は臨也の頬を流れ続けるそれを乱暴に拭った。でも、拭いても拭いても溢れてくる。

「ああこれ?汗だと思ってたよ。今日は暑いしね」
「じゃあ俺のも汗だ」
「嘘だね。シズちゃん汗かかないタイプだったし。…熱中症で青白くなってぶっ倒れてさ。化け物のくせに何で熱中症?ってかんじ」
「………」
「今度からは事前に俺が気づいてやれないんだから、せいぜい気をつけなよ」
「………」


「やっぱり……シズちゃんの笑った顔、記憶にもうちょっと詰め込んどけばよかったのかな」


今の俺の顔、ひでぇから。
見られなくてよかったよ。


というのは、嘘。



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