Drrr!!
□折原先生と例の患者さんについて
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臨也先生視点
親が有名な外科医である子供は、なぜか何となく医者を目指すものだ。
かく言う俺もそのひとりであった。まあ過去形になってしまうのだが。
中高生で首席をキープしていたし、両親の勧めで医療の道へ進んだ。彼らは大学入試を控えた俺が自分たちと同じ職業につくと信じて疑わなかったらしい。
誰も、外科医になるなんて言ってないのにね。
両親のキャリア力で既に敷いてあるレールに乗っかる気はさらさらなく、俺は婦人科を選んだ。
どうしてわざわざそれを選んだかって?
まぁ、あみだくじさ。
と、いうことで折原臨也は折原クリニックで爽やかな医者として女性に支持されているわけ。
成り行きで選んだ進路だけども、考えさせられることが多い。
俺は男女の性別を越えて平等に人間を愛しているけれど、実際問題に女性とはとても不利な生き物だ。
ゴム無しでやって泣くのも女、中出しで被害を被るのも女。
セックスにおいて受け身な彼女たちには、やっぱりそれ相応のリスクがある。
俺的には、毎月毎月股から大量に出血するってだけでもかなりのストレスだね。恐怖だ、ホラーだよほんと。
だから、そんなストレスに重ねて月経痛もすごいというあの患者…平和島静緒さんには素直に同情した。
いかにも病院慣れしていない風にキョロキョロそわそわしてたし、なにしろかなりの美人だったからよく覚えている。
まあ、あの衝撃的なキックを放たれては忘れようもないが。
美人なのにどこか可愛いとか、超俺の好みにドンピシャとか…確かにそうは思ったけど、診察が始まればどんな人間でも俺にとっては「患者さん」になる。
どんな不細工でも美人でもそれは同じだ。
だから、決してあの内診は下心があったわけではない。
よって俺のこの怪我(全身打撲、右肩脱臼)は事故だ。
「ほんとうにっ申し訳ありませんでした!」
短期間入院して、クリニックに復帰して次の日。例の平和島さんが菓子折りをもって謝りにきた。
慰謝料といい封筒を押し付けられるが、流石に断る。
「いえ、いいんですよ。こちらもロクな説明なしに配慮に欠けた診察をしたわけですし」
「でも…っ」
あ、涙目になってる。
かーわいいなあ。
平和島さんの表情は実にくるくるとよく回った。
俺の怪我を見て真っ青になって、診察最中を思い出して赤くなって、でも引くわけにはいかないと頑張っている。
かわいいな。
ナチュラルにそう感じた。
まあ彼女は形式上「加害者」なわけだし、罪悪感を感じているのもわかる。
押し付けられる形で紙袋を受け取った俺を確認すると、彼女は踵を返して立ち去った。
その二三週間後だったと思う。
俺が池袋で彼女に再開したのは。
日も暮れかけ、大通りから離れた無機質なビルが立ち並ぶ人気のない道を歩いていたとき。
人のうめき声が微かに耳に届いた。
好奇心からひょいと顔を覗かせたその先には、ズタボロで座り込む人影。
バーテン服に金髪にサングラスの、あの「池袋最強」がうずくまっていた。
「へぇ、こーれがねぇ」
今日俺はたまたま友人の家へ呼ばれただけであって、普段は池袋には全く来ない。あの有名な池袋の破壊神を間近で見るのは初めてだった。
何でも、車でも自販機でも投げ飛ばしてしまうほどの剛腕。いったいどんな輩かと、軽い気持ちで話しかけた。
「もしもーし。聞こえますか?池袋最強さん」
「……っう、」
人物がゆっくり顔を上げる。
それと同時に、理解してしまった。つい最近会った相手…しかも大怪我を負わされていれば忘れられるはずがない。
「へ、いわじま…さん?」
「………っ!?」
それだけでも驚きなのに、池袋最強…いや、平和島静緒の頬は涙で濡れていた。
ぎょっとして近寄ると、目を見開きこちらを伺う。
「おり、はら…先生?」
荒い吐息と赤らんだ頬。苦しげに寄せられた眉。
発熱しているのか?
さっと手を当てた額は確かに熱を持っていた。
慌てて着ていたコートを脱いで、彼女の薄い肩をくるんだ。
携帯を取り出す。
「くそ…っ」
新羅を取り出すコール音が、こんなにイラついたことは初めてだった。
折原先生の偶然
「あれ?臨也?」
「遅すぎ!後で覚えてろよ」
「ええー…」