金色のガッシュ
□お義父さんといっしょ
1ページ/4ページ
義父ガッシュ(35)×息子清麿(16)
5年前に結婚した相手には連れ子がいた。
それでも私は構わないと思ったし、妻はもちろん、妻の遺伝子の半分を受け継いだ子供も愛せる自信があった。
清麿は可愛らしい子だ。
小学校六年生にしては大人びていて、でも頑固で芯の強いひとりの男でもあった。家事もこなすし、しっかり者だ。
結婚に後悔はつき物だ、と聞いたことがあるが、私の中にそんな感情はなかった。
つまり、毎日が思いがけず楽しかったのだ。
しかし、生活が安定して半年後、妻は交通事故であっけなく他界した。
呆然と立ち尽くす清麿を、思わず抱きしめた。
今までも、これからも、私がお前を守ってやる。
あまりの細さと、体温の高さに驚きながら、誓ったのだった。
(私は、)
(お主を、)
(妻の分まで愛すから、)
そんな葬式の日から、早4年。
「こっの…クソ親父ぃぃぃっ!!」
ドタドタと廊下を駆ける音に顔を上げると、書斎の扉が吹っ飛ぶように開いた。
「これ清麿、廊下を走るでない。しかも!もう門限過ぎてるぞ!」
「ざけんなよっ。なんだあのメールはっ。つーかまだ8時じゃねえか!」
「うちはうち、よそはよそなのだ」
「門限は正直もう諦めた。でもな、あのメールワザと送りやがっただろ!」
息子に彼女ができた。
しかも、息子は気づいていないが、超ろくでもない女だった。(ちなみにコレは清麿の親友のデュフォー君情報だ。)
だから、つい。
親として子を思いやった結果だ。
「だからって、親父が勝手にメールで別れさせることねえだろっ。ファザコン野郎のレッテル貼られたら親父のせいだからな!」
「デュフォー君も心配してたぞ。お前は女を見る目がまるでないな」
「あいつと勝手に連絡取り合うな!」
「息子を心配して何が悪いのだ」
父子家庭ということで、周りに偏見を持たれないように。会社を異動し在宅勤務に就き、家事を覚えた。普通の家庭よりも愛情を注いだ息子は、高校生。多少愛し過ぎたため、今は反抗期真っ盛りだ。
しかも、ヤりたい盛りの男子高校生…。
反動でどこの馬の骨ともつかない女に遊ばれるなんて、一保護者として黙ってはいられない。
「まじウゼェ…」
「ウザくて結構!…ほら、ご飯にするのだ」
膨れっ面をしていてもやっぱりお腹は空いているのか、大人しくダイニングに向かった。
「「いただきます」」
ロールキャベツは会心の出来だ。
じわりと口に広がる肉汁に清麿の頬がが思わず綻んだのを見ると、心がじんわり温かくなる。
「どうせ告白されて、何となーく流されればイケると思ったんのであろう」
「ん…」
周囲の男友達が次々に『大人』(…まぁ、下半身的な意味だが、)になっていくこの時期。
「ちゃんと好きな人を作れば、私も何にも言わぬ。私も、母さんも、清麿にはちゃんとした恋愛をしてほしいのだ」
「ん…」
これ、箸をくわえるな。注意すると、真剣な眼差しで射抜かれた。
「親父は、再婚しねぇの?」
清麿と私は血のつながりはない。妻がいなければ完全に赤の他人だし、周囲も再婚を勧めてくる。
「俺は親父が再婚するなら反対しないし、邪魔なら家を出て…」
「清麿」
片親で他人。
この事実は反抗期の息子にとって、更なる悩みになっていると思う。
潔癖なまでの『恋愛観』も、うちの家庭の事情ありきだと薄々は理解している。
でも、
「バカタレ。…お主は誰がなんと言おうとうちの息子なのだ。少なくとも、私が死ぬまではな」
「…ん」
「ほら、ロールキャベツが冷めるぞ」
箸を持つ指先から、爪先、少し跳ねたつむじまでを、愛おしく思う。
この存在が、近い将来誰かのものになる。
私の手から、私の庇護下から離れていく。
それを許せそうにないのは、私が熱心な父親だからであろうか?
人の親なら、仕方がない感情なのだろうか?
食卓テーブルを穴があく程見つめても、何百と繰り返したこの自問自答の答えは、出てこない。