金色のガッシュ

□見つめて捉えて
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王を決める戦いの最中


ヤツの目。
どんな事柄の答えをも導き出す「アンサートーカー」は戦闘時に大いに役立った。

敵の急所を見抜き、的確な指示のもとで迅速な攻撃をする。
あの「目」の前ではどんな魔物とそのパートナーも、丸裸同然であった。
その能力を利用して数々の勝利を手にしていた俺にとって、ヤツの目はただの道具に過ぎない。王になるための道具。

その、はずだったのに。




「おいゼオン、」

ふわりと、肩に掛けられたのはダークブラウンのコート。
上を向くと次々に降ってくる雪が目に入るため、ただ黙って俯いていると、
「まだ寒いか?」
デュフォーは自身が巻きつけているマフラーすらも外そうとするので、ぶっきらぼうに首を振った。

コートのお陰で突き刺さるような寒さは和らいだ。
でも、体にはモヤモヤと熱を持って苛立ちが渦巻くままだ。

俺は寒いなんて言ってない。
顔色にも出してない。

よもやコートを貸してくれなど、頼んだ覚えはないのだ。
それなのに、デュフォーはコートを差し出し、もしここが室内であれば毛布や温かなココアなどを持ってきて、有無をいわさずに与えてくる。

(……観察されているのか?)

デュフォーの目は俺を見抜く。
欲しいもの、して欲しいこと、掛けてほしい言葉。

易々と心中を見抜かれるのは、俺のプライドが許さない。
無性に、悔しい。

何より悔しいのは、俺がヤツの目をほんの少し、ほんの僅かだけ、恐ろしく思ってしまっていることだ。

(バカな。……道具を恐れてどうする)


でも、しょうがない。

気付いたからだ。
自分にとっての彼の才能は、そして彼自身は、もう「道具」などではないということを。
だから、怖い。

デュフォーは俺の数歩後ろをゆったりとした歩幅で歩いていて、俺が突然立ち止まってもその距離を変化させないままぴたりと止まった。
振り向いてもきっといつもの無表情のままかと思うと、振り向く気が起きない。

俺はコートを脱いだ。
脱いで、地面に捨てた。
投げつけたといった方が正しいかもしれない。

「…………」

デュフォーの無言の視線が背中に突き刺さったが、無視をする。
やっぱりいらない、とか、寒くない、とか。そういうことは一言も言わなかった。

しばらく突っ立ったままでいると、デュフォーはおもむろにコートを拾って雪をはたいた。
そのまま自分で着るだろう。
そう思ったのに、彼はぐるりと回り込んで俺の正面に立つと、しゃがんで目線を合わせた。

目と目が合う。
目を瞑ったり、目をそらせばいいはずなのに、動けなかった。

怖い。
デュフォーに、知られるのが怖い。
その「アンサートーカー」が俺の心情――俺がデュフォーに世話を焼かれ、甘やかされ、それを甘んじて受け続けている理由を知られることが。

実は、それが嬉しいだなんて。

見抜けるのか?
こいつに。
いや、見抜いて欲しいと思ってしまう。

そうして、また俺の望むものを何でもくれと、そう甘えてしまう。
俺は、こんなに弱かったのか。
そう自覚させられるたび、いちいち苛ついた。

俺の甘っちょろい本性を見抜いて、こいつはどう感じるのか。
道具にどう思われても何とも感じないが、こいつはもう道具ではなくなってしまった。



デュフォーは重くため息をつくと、すくりと立ち上がった。

「……おいデュフォー、答えは出たのか?」

揶揄するように訪ねる。
こいつのことだから「当然だ」と無表情で告げられると思ったのだが、その返答は意外だった。

「お前に関して、答えが出たことはない」

しかもその声色は情けなさが漂っていて、思わず顔を上げた。
なかなか見ることはないだろう困った様子のデュフォーは、こつんと頭を小突いてから脇に抱えていたコートを再び俺に掛けた。
掛けたというより、巻きつけた。そうしてから、一言を漏らした。


「俺はゼオン、お前が怖いよ」

軽い調子でぽつりと言われて、最初は意味が分からなかった。

「なぜ怖い?なぜお前が他人を怖がることがあるんだ!」
「他人なんか怖くない」
「じゃあなぜ…っ」

「他人じゃないからだ」

真摯な色を帯びた瞳に見下ろされる。

「ある程度人間の思考パターンや心理学的行動パターンは頭に入っている。でも、お前は当てはまらない。いきなり怒るしいきなり笑う。全てが唐突だ」
「……っ、」
「俺は結論に至った。ゼオンは他人じゃない。よって俺は、俺の理解の範疇を超えるお前が怖い」

「なんだ……それ」

がっくりきた。
アンサートーカーは万能ではないらしい。特に、人の心に関しては。

ただひとり相撲をしていただけかと思い知らされ、取り敢えずデュフォーの耳をぐいぐい引っ張った。

「お前は紛らわしいんだ!俺のこと何でも知っているような顔しやがったくせに!」
「言いがかりだ」
「うるさい」
「何でも知ってたわけじゃない。想像したんだ。お前を見て、足りない答えを補っていた」

たまたま想像通りに俺が動いたということなのか。
そうだとしても、こいつの手のひらの上という感じがして何となく釈然としない。

むっつりと黙っていると、手を差し出された。帰るぞ、という短い言葉も。
ガキじゃあるまいし。

「子供あつかいするな」

その温かい手をぺしんとはねのけるが、それでも結局大きな手に捕まった。

「俺が想像するに、お前の拒絶は全て甘えだな」
「…ふん」
「正解だろう」
「くだらんことを言っていると置いていくぞ」



歩き出したデュフォーの歩幅はきちんと俺のそれと合わせられていた。



end



…あれ?
もの凄くツンデレなゼオンのはずがとんだデレデレにorz
…あれ?

要約すると「デュフォーに見つめられると、実は構われることが嫌いじゃないことを見抜かれるような気がして、そんな甘えた自分をデュフォーがどう思うか気になって怖いゼオン」という感じ?になるのでしょうか…?

すいません。
ツンツンゼオンにはまたチャレンジしたいと思います。
リクエストありがとうございました^^





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