Drrr!!

□マイフェア×××
2ページ/2ページ




「なんで…っ、こんな高そうな店…」
「はいはい入る入る」

付いた先は高級ホテルだった。
最上階のフレンチは厳かなムードが漂っていて、よれたワイシャツにビジネスパンツの私には肩身が狭い。
焦る私の一方臨也はホテルの支配人と親しげに談笑していて、このやろうと思いながらも私は踵を返してエレベーターに向かった。

「私帰るっ」
「ちょっと静ちゃんっ!?せっかく用意したのに…」
「…用意?」


「こっちの部屋だよ」

臨也の後に続いてある一室に入ると、何着ものドレスがずらりと並んでいた。
なかでも目を引くのはワインレッドのクラシックなドレスと、爽やかなブルーのマーメイドドレスだった。

「わ…あ、」

思わず声が出る。
きれいだ。キラキラしていて、ゴージャスで、ふわふわしている。
テーブルの上にはジュエリーが並んでいた。ホワイトパールの揃いのピアスとネックレスは、所々にあしらわれたダイヤと共に輝いている。


私が捨てた部分が、この部屋には溢れていた。

隣にいる臨也の様子を伺うと、なぜかバッチリ目があう。
その瞬間、部屋のドアを開けてからの自分が全て観察されていたことに気づいた。、
かあっと顔が熱くなるのと同時に、ふと冷静になって、我に帰ってしまった。

何やってるんだ、何感動しているんだ!
女の子じゃあるまいし、こんなドレス見て嬉しいとか、いいなあとか、そんなの…、そんなの…。
そんなの許されない。
自分が自分を許せない。


「どう?気に入った?プレゼントだよ」
「………」

室内の等身大の鏡。
そこに映る自分は…デカいし、髪も痛んでるし、胸もないし。一生このパンツスーツしか似合わないに決まってる……と、真実を如実に語る。

こんなの、必要ない。
こんな無駄なことに金を使うな、臨也。
私は、男女なんだぞ。

言ってやりたかったけど、頭の中ほどスムーズに言葉が出てこなかった。
せっかく選んでくれたのに、嫌われるかも。
いや、べ、別にコイツに嫌われても何とも思わないけど。

でも何となく罪悪感があって、私はぎこちなく首を横に振ることしかできなかった。


「……いらないの?」

「……ほんとうに?」

「ふーん」

やばい。
泣きそうだ。




「うそつき」
「…!?」

唇に、温かいものが触れた。
臨也はいつの間にか正面に回っていて、私の腰を抱いて引き寄せる。
ヒールを履いた私の目線には臨也の肩があって、ぐいっとその距離が近くなった。

「泣かないで。泣くほど、女の子の自分は嫌?」
「ないてなっ」
「泣きそうだった」

静ちゃんを泣かせたかったわけじゃないんだ、と呟かれる。

「ただ、俺の誕生日に綺麗な静ちゃんと食事したかったんだ」
「…へ?」

誕生日…?
涙がいっきに吹っ飛んだ。
なんだこのバカは。自分の誕生日に他人にプレゼントしてやがんのか。

「プレゼントをもらって『あげる』ってのも、『あげる』の一種でしょ。ね、静ちゃん」
「そんなめちゃくちゃな祝い方があるか!」
「だって静ちゃん、俺の誕生日なんて知らないでしょ。俺の個人情報はめったに流失しないし、させないからね」

そんなこと、いわれたら…断れないに決まってる。

「ほんとうに…私なんかがこんな服、似合わないと思うぞ」
「ふふ、着てくれるんだ」
「今日だけ!」

今日だけ、しょうがないからだ。
特例中の特例だ。



ドレスは臨也が選んだ。
ブルーのドレスは最初に私が気に入っていたもので、奴は目ざとくそれを見抜いていたみたいだ。

「静ちゃんの誕生日には、あの赤いドレスを着てよ、ね?いいでしょ」

そういって笑う臨也の瞳の色とドレスの色がリンクする。
随分先のことなのに、いままで自分の誕生日なんてどうでもよかったのに。
なぜだろう。すごく待ち遠しい。

「お前が居るときなら、スカートもお洒落も悪くない」

なんて。
口が滑ってしまった。

少し、酔ったのかもしれない。





前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ