メジャー短編1

□寿誕『今日という日が』
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激しく窓を叩く音で目が覚めた。




カーテンを開けば薄暗く重たい雲。




「寿ちゃーん、起きなさーい」




「はーい」




これ以上ないくらいにお腹は空いている。




いつもなら身支度もそこそこに腹の虫を黙らせようと駆け降りる階段が今日はとてつもない急な崖の様に思えた。








「今日は早く帰ってこれるでしょ?」




「・・・うん、どうかな。部活があるからいつもと同じくらいになるよきっと」




「そう・・・」




申し訳ないとは思う。




でも・・・気持ちは嬉しいけど、毎年俺はこの日になると今日の天気の様な気持ちになる。




今夜はきっとケーキが用意されているだろう。
小さな灯りが灯ったロウソクを、俺は笑顔で消さなければならない。




自分はひねくれている。
だから・・・気を使われているようでどうしても息苦しさを感じてしまう。




祖母のがっかりした顔を見ていられなくて、わざと高く茶碗を持ち上げご飯を掻きこんだ。




*



「佐藤くん、おめでとう!」
「うん、ありがとう」




「佐藤君、これ・・・プレゼントなんだけど・・」
「嬉しいよ、ありがとう」




「寿!今日誕生日だろ?おめでとうな」
「ああ、ありがと、倉本」




沢山の祝いの言葉は有り難い。





しかしここでも俺はどこか乾いた心でそれを遠くから見ている自分を感じていた。




嗚呼、家に帰りたくない・・・
今日が早く終わればいいのに。





今日という日をあとどれだけ迎えなきゃなんないんだろう。
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