Red Roze

□大きな誤解と小さな嫉妬                         
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見つけた。

zooのオフィスにつながる扉前に、扉を開けて中に入ろうとしている愛しい人を見つけた。

「マリア!!」

さして高くもない屋根から飛び降り、後ろから呼びかけた。しかし、反応しない。無視し続けるマリアローズに、何度も声をかけるが、反応は変わらないまま。

「マリア、」 

こらえきれずに、近づいていき美しい髪がかかる肩に手をかける。振り向かせて、顔を
のぞきこもうとすると、手を振り払われた。

「マリアローズ、さっきのは、」

「うるさい」

顔も見せてくれないで、中に入ろうとするマリアローズを腕をつかみ、抱き寄せる。無言で抵抗するときは、本気で怒っている時だ。
ボクの腕の中で、無言の抵抗を続けるマリアローズと目を合わせる。
目を逸らせないほどに顔を寄せると、諦めたのか、今度は鮮烈な
橙色の瞳で、睨みつけてきた。
「放せ」

「マリア、あれは」

「うるさい…!放せって言ってんだろ!」

「話をするだけでいいんだヨ!」

「嘘つき!僕なんかどうでもいいんでしょ、
好きでもなんでもないんだろ!こんな僕より
トマトクンが大好きなんだろ…!」

「違うんだヨ、マリア!」

「もうやだ、ほっといてよ、バカ!」

「嘘の日…エイプリルフールなんだヨ!」

マリアローズのぴたりと動きが止まる。

「今日はいつもと逆のことをいう日なんだと
野菜男に言われたんだヨ。それで、野菜男に
『俺のことが大っ好きなんだな』って言われて…。つい、言い返しちゃったんだよネ…。
ごめんネ、マリア。紛らわしい事しちゃって。でも、信じて。ボクはマリアローズ、 キミを、キミだけを愛してるんだ」

目を見開きポカンと口を少し開いたまま
数秒固まって。 

「嘘…なの?」

口の端からこぼれたような言葉に、
強くうなずいた。

「ウン…嘘なの」

「………」

マリアローズが解放された両手で顔を隠す。

その顔は真っ赤に染まっているのだろう。
見なくてもわかる。
ああマリア、可愛い。
や、やばい、可愛いすぎる、ヨ…。
あ、とかう、とか小さい声を漏らしてるマリアローズを、思いっきり抱きしめて
今すぐ連れ去ってしまいたい。

「うわ…うわぁ…どーしよ…僕……」

「もしかしてマリア…妬いてくれてた?」

どんっ、と突き飛ばされ、少し怒った顔を したマリアローズが、

「な…、んなわけないだろっ…!」

真っ赤な顔で目をそらして否定されても、
…ネ?全然説得力無いヨ?

「逆の日、ということはホントは妬いてくれてたんだネ?」

「〜〜〜っ!!」

図星だったのか更に顔を赤くした。見えた。「さっきの言葉も、『放さないで』
『放っとかないで』『ずっと傍に居て』
『大好き』ってことだよネ。もう…マリアったら素直なようで素直じゃないんだから♪」

「あ…アジアンなんて大好きだーっ!」

ヤケになったのか、目をぎゅっと閉じて
叫んだ。

体が勝手に動いた。
マリアローズをぎゅっと抱きしめていた。

「ありがとうマリア!ボクも愛してるヨ!」

「は、はああああああっ!?」

マリアローズの耳元でこっそり囁いた。
本当のエイプリルフールは午前までだということ。今はちょうど午後だから、マリアローズが今言ったことは逆にはならないのだ、ということを。

「はあ…!?な、ちょっと…!」

「フフッ、愛してるヨ、マリアローズ!」

「うわぁあ!ばか、変態、死んじゃえ〜!」















「マリア達、気ぢゅいてないみたいね」

「いやー、毎度ながらちょっとうらやましいわ。わしもカワイイ彼女とイチャイチャしたい…って、ピンプ!そんな目で見るなっちゅーねん…。そらな?わしかてな?もう何回も振られとるさかい、そんなことわかっとる。
せやから―」

「うるさいです…カタリさん、静かにしてください…」

「す、すまん。せやけど、なんか今日、
サフィニアもユリカも目ぇ輝いとるで?」

「しょうかしら?」

「わくわくしてるのは…、確かですよね…」

「しょうねー」

「こんな近くでイチャイチャラブラブされたら、見てるこっちが恥ずかしくなってくるような気ぃせえへん?」

「だが、あいつも正直じゃないな。まあ、
 相手が、かなりはっきりいってるからかもしれんが」

「無視かいな…」

「マリアも私たちが見てるなんて思ってないらしいし」

「…『昼飯時』、気づいてマス」

「「「え?」」」

「うむ。アジアンのやつは気づいているみたいだな」

「……見せちゅけてる、ってことかしら」

「すごい…ですね…」

「恐るべし、やな…」

「ところで、トマトクンはどうしてこのこと
を知っていたの?私、言われるまでじぇんじぇん気ぢゅかなかったわよ?」

「もしかして…こうなることを…予想、してたんですか…?」

「まあ、少しはな」

「これ、トマトクンが仕組んだものやったんか…」

「まあ、いいじゃないか」

「しょうね」

「そう…ですね…」

「ええな」

「はイ」









「だからっ、さっきのはナシっていってるだろー!!」

「アハハ、マリア、たまにはボクの前で正直になって?誰もいないから大丈夫だヨ?」

「そういう問題じゃなーい!」

「ン?じゃァ、どうすればマリアはボクに
 甘えてくれるのかな」

「甘えるわけないだろ、この変態!」

「おっと。もう…、照れ屋さんだネ」

「ちがうからー!」


マリアローズが、皆がこのやりとりを見ていたことを知るのは三日後だった。
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