稲妻な部屋。

□良い相手
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特に何事も無く、平和な休日に俺は彼に誘いをかけた。

「緑川っ」

ベッドに座って雑誌を読んでいた恋人に、妖しい声音で囁きながら、ゆっくりと背中から抱きしめた。
今日は外に出かける予定も無かったために簡単に結ばれている髪の毛に鼻を沈ませる。
ふわん、とやわらかい、少しだけ甘いにおいが脳髄にまで染み渡る。胸いっぱい吸い込んだ。
干したばかりの布団のみたいに、ずっとここにいたいと思わせるこの香りは、俺をどこまでも、どこにでも、誘うのだ。
少し下りて、すでに赤くなった耳に唇を寄せる。
「久しぶりに、やらない?」

ちゃんと必需品も持ってきた。
ゆっくりと、確実に囁いた俺の言葉に、緑川はびく、と体を震わせた。
前のことを思い出して恥ずかしくなってしまったのか、こっちを向こうとしない。
とけてしまいそうな黒い濡れたような瞳が俺を移してくれないなんて、寂しい。

照れ隠しなのか、読んでいた雑誌にまた集中しようとしながら緑川はつっかえつっかえ返答をする。

「っ、やだ」

なんとなく予想していた回答に、俺はさらに楽しくなってきた。
抵抗されると余計に燃える。
って、前にも教えてあげたのに。

握り締めた雑誌を取り上げて、丁寧にベッドの端まで投げる。

「ちょっとー…」

ちょっとすねたように言い、反射的にこっちを向く緑川に隙を見た。
黒い瞳に自分が映った瞬間、俺は待ってましたとばかりに口付けた。
軽く唇が触れただけにもかかわらず、緑川は顔といわず手も足も赤く染めた。

「緑川」

発音としては、

み ど り か わ 、

といった具合。


「や…ッ、…や、だ。やだよ、ばかぁ…」

「どうして?」

う、と口をつぐんで、理由を言うまいとした。
ふい、と横を向いて目をそらされる。

が、そんなことで諦めるヒロトでもない。

「みーどーりーかーわぁー、しようよー」

語尾を延ばして甘く囁きかける。
俺って意地悪い、と思った。
何故かというと。

「だ、だって…」

これで素直にならない緑川はいない。

「だって?」

「ひ、ヒロト、手加減してくれないし…、それに…」

「うん?」

「その、すぐ奥まで攻めてくるし…」

「うん」

「やだっていってるのに…降参してもずっとしようとするし…」

「緑川ぁ。この俺が、やだって言われて簡単にやめるわけ無いだろ?それにいつも良いところで降参しちゃうし。
……ね、いいだろ?今日は晴矢も風介もいないし。あの二人、いつも良いところで邪魔をするんだから……ったく」

はぁ、わざとらしいため息をついて、緑川の体に腕を絡ませる。
ああ、なんだかテンションが上がってきた。

「ね、緑川?お願い。一回でいいから…」

「とかいって、この前も三回も続けただろ!俺の意見もきかないで…バカ」

「ゴメン、だって緑川が可愛くて」

あの焦った顔が好きなんだ。そう告げると再びばか、と言われる。
困った顔も、泣きそうな顔も、もちろん笑顔も大好きなんだけどね。
って言うと、三回目の罵倒がきた。


「一回だけだから、リュウジ」

さりげなく呼び方を変えたことに気がついて、俺の将来の嫁はもじもじした。

「………ぅ……」

「ね?リュウジ」

「………」

「ね?」

「………一回だけ、だよ」

落とした。

「うん!!じゃあ、すぐやろう。早くやろうもうやろう」

「ちょ、ちょっと!そんな焦んなくても…っ!」

「ほらっ、緑川、よそ見しない!」

「えッ、えええ!?いきなりそこ…ッあ、ちょっとまっ、ええ!?」

「ふふ…了承も得たし手加減するとも言ってないしね!遠慮なくいくよ、リュウジ!!」

「ばかぁああ…!!」






「あいつら、なにやってんだ?」
「将棋だって。ていうか私たち邪魔扱いなんだね…」





END,ぅ
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