龍が如く4-2

□第2章
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第2章 眠れぬ夜を越えて




タクシーの窓から見えるのは、神室町の街並みと光り輝くネオン。


5分ほどでタクシーが停車すると、後部座席のドアが開いた。


「いつも早いね。」
秋山は、タクシーの運転手を労うと千円札2枚を手渡した。


運転手は恐縮した様子で秋山に頭を下げる。
「秋山さん、いつもすみません。」


タクシーから降りると、まるで高級ホテルのような車寄せのスペースが広がっている。


見上げると、ここが超高層タワーマンションだと分かる。


「結構近いでしょ?」


「ええ。」



秋山は女性と歩幅を合わせてゆっくりと歩き、エントランスへ向かうとポケットから鍵を取り出した。


タッチパネルの画面に鍵をかざすとオートロックの自動ドアが開いた。


大きなエレベーターホールにも同様のタッチパネルがあり、秋山が鍵をかざすと自動ドアが開く。


エレベーターに乗り、再び鍵をセンサーにかざすと最上階の32階が点灯した。


超高層タワーマンション。
豪華なエントランスに万全のセキュリティー。
そのどれもに溜息が出た。


秋山さんって……金融業をしてるって言ってたけど……一体何者なの?


エレベーターが上昇を始めると、ネオンの明かりを感じ、振り返る。


ガラス張りになっているエレベーターから神室町の夜景が眼下に広がり、みるみる小さくなっていく。


「すごい。綺麗……。」


「神室町の夜景、綺麗でしょ。ココのマンション、結構気に入ってるんだよね。」




32階に着いたことを知らせる音が鳴り、ドアが開く。


ホテルのような絨毯張りの内廊下。


秋山の後をついて歩く。


廊下をかなり歩いてから、1つ目のドアを通り越した。


ドアの表示は3201。

1室がどれだけ広いのだろう。


3202。

更に歩き進める。


3203の前で立ち止まり、「ココ。」と言うと、ドアに鍵を差し込んだ。


ドアを開け、「どうぞ。」と促されると、目の前に広がるのは広い玄関。

床は大理石。


「お邪魔します。」と言ってミュールを脱ぎ、置いてあるふかふかのスリッパに履き替える。


秋山の後を追い、長い廊下を歩く。


突き当たりのドアは開けっぱなしだった。


高い天井から床までの大きな窓。

180度窓一面に神室町の夜景が見え、
思わず息を飲む。


「すごい……。」

大きな窓に引き寄せられるように歩いていくと、眼下の夜景に釘付けになった。


仕切りのない大きな空間は、左側がリビング、右側がダイニングキッチン。

黒で統一されたインテリア。

ダイニングキッチンの奥にもまだ部屋があるようだった。


秋山はキッチンのテーブルにコンビニの袋を無造作に置くと、窓に立つ女性の隣へ歩み寄る。


「これが気に入って決めたんだよね、この部屋。」


神室町が一望できる。

煌びやかなネオン。

夜中だというのに人の波。

眠らない街…。


「こうやって下を見てると、俺達って、ちっちゃいなぁとかさ。いろいろ考えながら見てるのが結構好きなんだよね。」


しばらく夜景を見つめる2人。


夜景を堪能し、窓から離れる。



秋山は、テーブルの上に置きっぱなしのコンビニの袋を持ちあげ、冷蔵庫を開けて、中に入れていく。


女性も手伝おうと近付くと、「ソファーに座ってて。」と笑顔で返された。


「何か飲む?」と、さっき買ったミネラルウォーターを見せる。


「はい、ありがとうございます。」


秋山は、コップとミネラルウォーターを持ち、女性が座っているソファー行くと手渡した。


再びダイニングルームのほうへ歩き出すと、その先にあるドアを開けっぱなしにして、奥へと消えた。


遠くでお湯を張る音が聞こえてくる。


秋山が戻ってくると、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プルタブを開け、ぐいっと飲んだ。

「あー…うまい。」


美味しそうに飲む秋山を見て、女性は自然に笑顔がこぼれた。


「お風呂にお湯入れてるから、ゆっくり浸かって疲れを取るといい。」


「ありがとうございます。」


秋山は缶ビールを片手に持ち、女性の隣へ腰掛けた。


ソファーの前にあるガラスのローテーブルに缶ビールを置くと、リモコンでテレビのスイッチを入れる。


「素敵なお部屋ですね。本当に…。」
そう言って、再び窓の夜景に視線を移す。


「気に入ってくれた?そう言ってもらえると、嬉しいよ。」


遠くで電子音が聞こえ、その音と共に秋山が立ち上がり、ダイニングルームの奥へと消えた。


「もう入れるよ。」と、奥から声がする。


「あ、はい。」

秋山の声がするほうへ歩いていく。


開けっぱなしのドアを歩き進むとベッドルームがあった。


キングサイズの黒い革張りのベッド。
枕が2つ。


その奥のドアも開けっぱなしで、さらに奥へと進む。


両側がウォークインクローゼットになっていて、左右に服が掛けられるようになっている。


広いクローゼットをもてあますように、スーツが数着かしか掛っていない。


さらに奥のドアが開けっぱなしで、秋山はそこにいるようだった。




立ち込める湯気に美しい薔薇の香りがする。

全面黒のタイル張りに、オフホワイトの大きな浴槽はジャグジー付きで2人が余裕で入れるサイズだ。

乳白色のお湯は薔薇の香りで満たされていた。

素敵なバスルームに思わず感嘆する。


「すごくいい香り。」


「店の女の子からの貰いものなんだけど、気に入った?」


店の女の子?から???


「ええ、とっても。素敵な香りです。」


バスルームを見渡すと、浴槽の後ろにガラス張りのシャワールームが独立していた。


「えーと、こっちにはドライヤーがあるから使って。」

こっちと言われた方向を見ると、鏡が大きく、まるで高級ホテルのような洗面台があった。

洗面台の近くにはトイレもあり、まさに洋風スタイルの浴室。

秋山の素敵な部屋と間取りに圧倒されるしかない。


「ゆっくり浸かって、疲れを取るといいよ。紙袋は、クローゼットのところに置いたから自由に使って。俺はリビングにいるから。」


秋山は、女性をバスルームに残すとリビングへと戻った。
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