龍が如く4-2

□第3章
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第3章 遠い日の記憶



ブレザーの学生服をルーズに着た、端正な顔立ちの少年。


シャツのボタンを首元まで開け、ネクタイを緩めに締めている。


ズボンを腰で履き、革靴のかかとを踏んで、ダルそうに歩く。


ベルトに付けているウォレットチェーンが、歩くたびに金属音を立てている。


学生カバンを持たず、手に持つのはコンビニの小さな袋だけ。




時刻は13時を過ぎた頃。


その少年は欠伸をしながら、神社へ続く石の階段を登っていく。


階段を登りきると、神社を通り過ぎて裏へ回った。


雑草が左右に生い茂る道を少し進むと、一気に視界が広がる。


そこは、街が一望できる光景。


彼の住む街が眼下に広がり、小さく見える。


芝生のように広がる背の低い雑草は、寝ころぶのに最適だった。


少年はこの場所を気に入っていた。


ちょうどベンチのような大きさの石があり、そこに腰かけると、ポケットから潰れた煙草を取り出した。


ポンポンとケースの背を叩き、出てきた1本を口に咥える。


慣れた手つきでライターの火をつけ、咥えた先を近付けると煙草の先端が赤く点った。


旨そうに吸い込み、紫煙を燻らせる。


煙草を咥えたまま、コンビニ袋から缶コーヒーを取り出し、プルタブを開ける。


口に咥えていた煙草を左手で持ち、缶コーヒーを一口飲むと、パンの袋を破り、かぶりつく。


缶コーヒーとパンだけの適当な昼食は、あっという間に終わった。


2本目の煙草を吸い終えると、眼下に広がる街を見つめた。


大きな伸びをしながら欠伸をすると、立ち上がり、芝生のように広がる雑草の上に寝ころんだ。


両腕を首の後ろで交差すると、その腕を枕代わりにして、目を瞑る。


顔に射す眩しいくらいの暖かい日差しが気持ちいい。


心地良い風。


学校のチャイムが鳴る音が、風に乗って遠くから聞こてくる。




どれくらい時間が経ったのだろう。




瞳を開けると、眩しかった太陽はもうすぐ夕日に変わろうとしていた。


上体を起こし、立膝をしながら夕日に染まりゆく街を見つめる。


少年は、ここから見る夕日が大好きだった。


大きな欠伸をしながら、後ろに倒れるように再び寝ころぶと、いつの間にか眠ってしまった。








鼻腔を擽るような甘い香り…。


その香りと共に人の気配を感じ、ゆっくりと瞳を開ける。


寝起きの視界には、ぼんやりとした人影が見えた。


白くて長い脚、柔らかそうな太腿。


プリーツスカートの中が全部見えそうで…。


見慣れない制服を着た少女が、寝ている少年を見下ろすように立っていたのだ。


視線を更に上に移すと、ものすごく可愛い顔。


途端に心臓が高鳴る。


少年は心の内を隠すように、わざと不機嫌な顔をしながら上体を起こした。


「ごめんね、起こしちゃった?」


「……っつーか、いつからいたんだよ。」


「いつからだろう?……だって気持ち良さそうに寝てたから。」


そう言って微笑む。


(やっべ、笑顔も超可愛い。)


「私もここから見る夕日が好き。」


(私も?……俺が、いつもここで夕日を見ているのを知ってるのか?)


少年はポケットから煙草を取り出すと、慣れた仕草でケースをポンポンと叩き、
出てきた1本を口に咥える。


ライターで火をつけ、旨そうに吸った。


少年は少女の顔をまともに見れないまま、少女からの一方的な会話だけが続く。


「ここ、よく来てるの?」


「私も来るの。」


「ねぇ……隣り、座ってもいい?」


その問いに少年は、ようやく口を開いた。


「……好きにすればいいだろ。」


少年は突き放したように言ったが、少女は嬉しそうな笑顔になる。


「じゃあ座ろうっと。」


少年のすぐ右側に腰をおろした。


肩が触れるくらい近付き、膝を抱えるようにして隣りに座った少女にドキっとする。


ふわっと香る甘い香りに、鼻腔が擽られた。


オレンジ色の夕日が街を染めていく。


少年は夕日を見つめながら、煙を吐き出す。


煙草から、ゆっくりと立ち上がる紫煙……。


少女の視線が夕日ではなく、ずっと自分に向けられていたことに気付いた。


少年は夕日を見つめたまま、不機嫌そうな顔をする。


「……さっきから、なに見てんだよ。」


「えっ……。」


気付かれちゃったという表情をして、少女は恥ずかしそうに正面を向いた。


「……ねぇ。」


「なんだよ。」


「中学生がタバコ吸っていいの?」


「は?お前に関係ねぇし。」


「お前じゃないんだけど。」


ちょっと怒ったような口調で口を尖らせて言う。


少年は、少女が座る右側に顔を向けた。


改めて見る少女の顔。


(やっぱ、すげぇ可愛い。)




少女はかなりの美人だった。


可愛いと美人を合わせ持つような顔立ちは、ハーフなんじゃないかと思える。


透き通るような白い肌に茶色の長い髪。


大きな瞳、長い睫毛。


制服の上からでも分かるほど大きな胸。


プリーツスカートから見える太腿。


細くて長い脚……。




「どうかしたの?」


少女の全身を見つめていた自分に気付く。


慌てて視線を反らし、突き放したように言った。


「……別になんでもねぇよ。」


「怒った?」


「怒ってねぇし。」


「良かったぁ。」


またしても自分に向けられる笑顔。


(可愛いすぎるだろ……。)


(どうする俺……。)


頭の中で必死に自問自答する。




不良って呼ばれている自分。


彼は、いわゆるヤンキーではない。


勉強はキライだが、天性の勘でヤマを張ったテストの成績は良いし、記憶力も良い為、成績はそこそこ。


確かに、見た目は普通の真面目な中学生じゃない。


自分の好きなスタイルにしているだけなのだが、その外見がいかにも悪そうにみえる。


授業は、サボってばかり。


学校の屋上で煙草を吸う。


他人を寄せ付けないような口調。


売られたケンカは必ず買う。


それが不良って呼ばれる理由。


ヤンキーなんてダサい奴らと一緒にされたくない。


そいつらにケンカを売られるため、しかたなく買ってるケンカは連戦連勝。


いつの間にか最強と呼ばれてしまい、彼を倒したいヤンキーがケンカを挑んでくる。


そんなわけでいろいろと面倒な毎日だった。


彼の端正な顔立ちと危なげな雰囲気は、女子に人気があり、頻繁に告白されるほどモテる。


それなのに彼女がいないのは、自分から好きになったことがないからだ。




「ねぇ、ねぇってば。」


少女の言葉で現実に引き戻される。


「……なんだよ。」


「お前って言われるのイヤなの。」


「は?」


「私、ゆり。……白河ゆり。ええとね、白いに、サンズイの河。ゆりは平仮名だよ。キミは?」


「なんでお前に俺の名前教えなきゃいけねぇんだよ。」


「お前じゃないもん。ゆりだもん。」


「っ……はぁー…めんどくせぇな。」


「ねぇ、教えて。」


「んああーー…めんどくせぇ!」


引き下がらない少女の問いに、大袈裟なくらい面倒な表情を作り、ボソっと答える。


「…谷村。」


名字だけ言うと、少女はその続きを待っているような表情を浮かべた。


「たにむら、くん。」


覗き込むような視線で顔を近づけてくる。


少年は慌てて顔を後ろへ引き、覗き込む少女の顔から離れた。


(な、なんなんだよ。顔、近けぇんだよ。)


心の中で叫びながら、心臓の音が速くなっていくのを感じていた。
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