龍が如く4-2

□第4章
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第4章 それぞれの想い



谷村は記憶を辿り、口を開く。


「中学ん時……。」


谷村の言葉で目の前がパっと明るくなるように、ゆりの失っていた記憶が蘇った。



神社の裏手で寝転びながら煙草を吸っている姿。

ルーズに着たブレザーの学生服。

一緒に見た街の夕日。



「……谷村……正義……くん?」
ゆりは記憶を辿りながら、自分の目の前にいる男の名を思い出した。


「ああ。」
谷村はゆりから瞳をそらさずに返事をする。


ゆりは谷村を見つめると、当時の記憶が目まぐるしく蘇ってきた。


見つめあう谷村とゆり。


2人の傍に呆然と立ち尽くしたままの秋山は、堪らずゆりに声を掛けた。


「ゆりちゃん!?……何か、思い出したの?」


「……はい。中学生の頃…。」


「中学生の頃!?」


「……私が中学1年の頃…。学校が終わってから……自宅近くの神社に寄り道してたんです。」


蘇っていく記憶を、そのまま話し続けた。


「うんうん、それで?」


「神社の裏手から街が一望できて。いつもそこには谷村くんがいて…。」


ゆりは目の前に居る谷村を見つめ、懐かしそうな表情を浮かべて微笑んだ。


「……私、谷村くんに話し掛けたくて。……毎日会いに行った場所。」


谷村は驚いた様子でゆりを見つめ直す。


「俺に話し掛けたくて…?」


ゆりは恥ずかしそうに視線を反らし、また谷村を見つめた。


秋山は、微妙な空気を醸し出している谷村とゆりに、もどかしさを感じていた。

秋山は言いたくない言葉が浮かんだが、ゆりと谷村に問わずにはいられなかった。

「……もしかして…2人は……付き合ってたの?」


秋山の問い掛けに、ゆりは首を横に振る。


「ううん。私は谷村くんの隣に座って話してただけ、です…。」


「話してた、だけ、ねぇ…。」
秋山は、ゆりの言動から、ゆりが谷村を想っていたことを察した。


秋山の心に駆け巡る複雑な想い。


「でも、私が引っ越さなきゃいけなくなって。それっきり……会えなくて。」


谷村は、ゆりを見つめながら、自らの記憶を鮮明に思い出していた。


ゆりは懐かしそうな声で谷村に語りかける。


「……谷村くん。信じられないよ。また……会えるなんて。」


谷村は頷き、微笑み返す。


「俺もだよ。」


「本当に……久しぶり、だね。」


「ああ。」


「谷村くん…刑事さんになったんだね。」


「まぁな。」


「すごく似合ってるよ。」


「そうか?」


「うん。」


ゆりは嬉しそうに頷き、微笑んだ。


完全に蚊帳の外になってしまった秋山はソファーに深々と腰を落とした。
(完全なる失恋だ。)
煙草に火を灯し、大きな溜息を吐く。


天井に向けて紫煙を燻らし続けている。


かなり落ち込んでいるように見える秋山に、堪りかねた花が話し掛けた。


「社長!」


放心状態の秋山は、花の呼ぶ声に全く気付かない。


「社長!しゃちょーーう!」


現実に引き戻された秋山は、慌てて返事をする。


「あ?うん?」


「集金に行ってください。ゆりさんは谷村さんに任せて、社長は集金!」


「えーーっ!?」


「えーーっ!?…じゃないです。行ってきてください。
えーと…ココとココとココ。3件です。」


「えーーーっ…。いま、行くの?」


「いま行くんです。」


「だってさぁ…。」


「だってじゃないです。いま行ってください。」


「ちぇーっ…。」


舌打ちしながら、ボードに貼ってある集金リストを眺め、溜息を吐く。


「……じゃあ行ってくるかぁ。」


重い腰を上げると、ゆりと谷村を横目で見ながらドアへと向かった。


「いってらっしゃーい。」
花は笑顔で手を振り、見送る。


秋山はドアのノブを握ると、振り返った。


「…谷村さん。ゆりちゃんを宜しくね。」


「了解。」


「ゆりちゃん。終わったら、これで電話ちょうだい。……すぐに迎えに行くから。」


『すぐに』という言葉に自然とチカラが入る。


優しい眼差しでゆりを見つめながら、携帯電話を手渡した。


「俺の番号とココの番号、登録してあるからね。」


「はい、終わったら電話しますね。」


秋山はいつものように後ろ手に手を振ると、ドアを開け、出て行った。
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