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□彼の理性
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「……なんて格好してるんですか」
脈拍を落ち着かせようと努めながら脱衣所のドアの前に戻ると、開いたままの扉から平井が隅で膝を抱いて座っているのが見えた。
「あ……」
「これ、よかったら。……すみません。着られそうなものがTシャツしかないので、落ち着かないでしょうけど下はタオルを巻いたりして何とかしてください」
僕は別室に居ますから。言おうか迷ってやめた。少し、普通の対応がわからなくなっている。
「あ、いえ、……すみません。ありがとうございます」
相変わらず遠慮気味に言って、申し訳なさそうに平井が塩坂から服を受け取った。それらを手に持ったまま迷う平井の代わりに外側から扉を閉めて、ひとつ息を吐いた塩坂はドアノブから手を離す。待合室の長椅子に腰掛けながら、どうしてこんなに息が苦しいのかと、自分にとっては長くなるだろうこの夜のことを考えると少し泣きたいような気分になった。