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□ジレンマの森
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「ね、君さ、何か飼ってるんだって?」
切れ切れの雲にいくらか遮られて、日差しが鋭さを失った六割方晴天の日。
「……別に、飼ってる訳じゃない」
木の上で仰向けになって、やる気のない声を出す。
「いいなぁ、僕も一回やってみたいなぁ。生殺し……、あれ? 何て言うんだっけそういうの」
「……多分あんたの考えてるのと違うと思うけど」
「えー、そうなの? あ、じゃあさ、見に行ってもいい?」
「駄目」
「早いね」
「あれはうちの子なの。ていうかあんた、下手したらこっちまで食うつもりだろ」
「いやぁ」
鷹は普段から細い目を更に細めて、いたずらっぽく笑った。
「あ、ねぇ、あれ」
枝に身体を預けてだらけきった体勢で話し込んでいたら、木の下を黒いうさぎが通った。
「……うちのじゃない」
「そうなの?」
「こっちのは白い。全体的に。毛色は茶色だけど、なんか……」
「なんか?」
「……ニュアンス、が」
「……」
よくわからないことになった辺りで、黒いうさぎがこちらに気が付いた。慌てて駆け出す姿に、鷹が喉で笑う。
「僕、あれ、欲しいかも」
「欲しいって」
「非常食的な」
「非常食……」
蛇が呟くのが先だったか、鷹は急降下して黒いうさぎを足で掴んだ。その勢いまま蛇のところまで舞い戻ってきて、木の上でうさぎを離すと満足げに笑った。
「捕まえた」
「見ればわかる」
(あーあ……)
うさぎとは総じて臆病な生き物なのかもしれない。捕まった大きな目をした黒いうさぎはただ怯え、動揺しているのか落ち着かない様子で視線を泳がせていた。
「それじゃあ」
「帰るのか」
「ん。愛の巣をつくるのでー」
「……はい」
相変わらずだなと考えているうちにうさぎを携えて飛び立った鷹は小さくなっていて、ひとつ息を吐いてから蛇は器用に幹を滑り降りた。