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□新雪に足跡
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何だろうこれ、と思った。他人に興味の無い自分が、先程から熱心に観察している対象。薄茶色の癖毛、更に薄い色の瞳。服の上からでも骨格が華奢なのは明白で、髪と同じ色の睫毛は不安にか微かに震えている。
――少年。
(……、いや)
むしろ幼児に分類されるのかもしれない。どちらにしろひどく歳が離れていることは確かだった。
「じゃあ、悪いけど」
「ん」
よろしく、と幼い子供の背中を軽く押した人物は、キャリーバッグを引いて改札へと向かった。遠方での結婚式に招かれたらしく、恩師だから断れなくて、と話す彼はちょっと主役以上に目立ってしまうのではと思うほど整った顔立ちをしている。足元の生き物と同じ色の猫毛がふわりと揺れて、そのうち朝の人混みの中に消えた。
「……名前は?」
「……」
「名前」
「……はるき」
「晴季ね。朝ご飯食べた?」
「……ない」
「じゃあ、帰って作るから。俺もまだなんだ」
(……、悪くない)
聞けば多少の間はあるもののきちんと答えるし、歩けば勝手についてくる。程良く人見知り。
(まぁ、一日くらいどうにかなるだろ)
他に頼める人がいないんだと泣きつかれてつい承諾してしまったけれど、こういう感じの子供なら大丈夫な気がする。母親は早くに病気で亡くなったらしいが、父親が残された子供に対して奇抜な育て方をするようなことはなかったようだ。
「嫌いなものある?」
「……?」
「嫌いな食べ物。入れないようにするから」
「……パセリ」
「俺もだ」
問題ないな、と笑った。我が儘な訳でもなさそうだ。
(なんか、珍しいかも)
この状況を楽しんでいるらしい自分が、少し意外だった。