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□新雪に足跡
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「ごちそうさまでした」
「……っした」

 トーストとオムレツの簡単な朝食を済ませて流し台に立つと、食器を持った晴季が覚束ない足取りでついてきた。健気な態度には好感が持てたが、多少不安な光景でもあった。

「……ありがと、あとは俺が」

(――あ)

 がしゃん、と重ねられていた食器が転んだ晴季の前に投げ出されて高い音を立てた。いくつかの皿が割れて、フローリングの床に散乱している。

「……う」
「ちょ、大丈」
「うあああああ」
「晴季」
「あああああ」
「……、晴季」

 泣き叫ぶ身体を抱き上げて背中をさすると、声がいくらか勢いを失った。そのままゆっくりと手を動かし続ける。しばらく経ってからも涙を零し時折声を漏らすものの、しゃくりあげる程度に留まっていた。

「痛いところない?」
「っ……ない」
「よかった」
「……、お、さら」
「うん?」
「おさら、わった……」

 一拍遅れて、ああ、と笑った。

「大丈夫だから。晴季が気にすることじゃない」
「……、はるき?」
「うん。晴季」
「?」

 体温の高い身体が離れて、不思議そうな目で見つめられた。

(……あ、もしかして)

「名前?」

 こくんと晴季が頷いた。涙は半分くらい渇いて、嗚咽も止まっている。

「智明、ね。俺の名前」
「ともあき……」
「うん」
「ともあき」

 へらっと笑った晴季が抱きついてきた。小さな背に手を置いたまま思う。

(人見知り……じゃなかったのか?)

 子供の身体は熱い。それが不快ではないことに、少しだけ妙な心持ちがした。



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