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□本日はお日柄もよく
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 本日はお日柄もよく、このような穏やかな日に人生の門出を迎えられるお二人、またご家族の皆様に社員を代表しまして心よりお喜び申し上げます。まさか自分のような若輩者にスピーチのオファーを頂くとは思ってもおらず、少々ぎこちない喋りになってしまうかとは思いますが何卒ご容赦くださいませ。

 新郎……失礼いたします、どうにも落ち着きませんので平常通り社長と呼ばせて頂きたく存じます。新婦も、失礼ながら奥様と呼ばせてくださいませ。

 社長と奥様の馴れ初め、出会いから喧嘩や仲直りを経ましてプロポーズに至るまでの紆余曲折を申し上げたいところではございますが、何しろ僕は奥様とは今日が初対面でございます。ですので、奥様が普段目にされない会社での社長のご活躍ぶりなどをお話しさせて頂こうかと。よろしいですか。ありがとうございます。

 社長はよく、社内を巡回なさっております。僕のような経験の浅い者にも分け隔て無く声を掛けてくださり、颯爽としたお姿は全社員の憧憬の的でありました。と同時にご自身の業務にも一切手を抜かず誠実に対されていたご様子で、あまりに仕事熱心なその姿勢に倒れてしまいやしないかと気が気でなくなることも度々ある程でした。一度、包丁を持ったままうたた寝なさった時には慌てましたね。社長もご自分でびっくりなさって。料理自体得意ではないのですから、新居では一層お気を付けくださいませ。

 しかしあんなに仕事一筋の社長がまさかご結婚なさるなんて、今でもまだ夢のような気さえしております。昨夜のあなたの様子からも、会場に着くまで僕は今日という日が何かの間違いではないかと思っていた程でした。

 ああ、本当に、本日は天候にも恵まれ一安心でございました。雨だと雷が心配ですものね。落雷で亡くなる方もいるようですから。ああ、あとは停電なんかもありますね。加えて雨は音を吸い取りますから、何かありましても発覚までに時間を要してしまいます。せっかくの晴れの日ですものね。いや、本当にいいお天気で。ほっとしております。

 奥様の美しいお姿、目に焼き付いてしまったように鮮やかに映っております。見つめる社長の瞳も僕はきっと生涯忘れません。生きて死ぬまで、思い出さない日は無いでしょう。

 素晴らしく、ああ本当に素晴らしい日だ。お綺麗ですね。小鳥のさえずりから爽やかな風まで、世界の全てがお二人を祝福しているようです。本当に、佳き日となりまして。

 本日は誠におめでとうございます。




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