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□罪なひと
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 いっそもう、傷付けばいいと思っていた。彼の言葉には何の意味も無くなっていた。変わっていく。投げ掛けられた優しさ、親切、好意、その根底にある無神経。

「君も、大切な人ができたら教えてくれると嬉しい」

 どの口でそれを、と。言える立場ではなく。言えるほど表へ向かう理不尽を持ち合わせてはおらず。薄く笑うことしかできなかった。彼がそれをどう受け取ったのかはわからないけれど。

「僕はいいです、そういうのは」

 あなたが幸せなら、それで。

 再三言ってきたことを、なぜ理解してもらえないのかがわからない。だから憎むはめになってしまったのに。だから遠くで勝手に幸せでいてほしいと、言外に含め続けたのに。

「けれども、僕は君に幸せになってほしい」
「は」

 思わず零れた。友人なのだから、と言い募る声が遠い。けれど鋭く刺さる。友人。そんなものにしなくていい。してほしくなどない。憎い。全てが憎い。

 あなたにも、あなたの恋人にも、目の前にいるこの人間が僕の神様だと言ってやりたい。

「いえ、ごめん、ごめんなさい。しばらく休みたい」

 微かな笑い声の隙間に告げた声は、ため息に酷似していた。

「体調が悪いのか?」
「そうではなく、友人を」
「え?」
「あなたの友人を、休みたい」

 無意識に微笑していた。そんな癖が付いていた。ず、と左胸に腕を差し込む。深く。

「何……」
「つまりは、そういうことで」

 何かが不意に外れるように、するまいと思っていたことをいとも容易くしていた。もういいと、思うことはそれだけだった。

 心臓を取り出してみせる。こんな状態だったのかとさすがに少し滅入って、それでも僅かに笑えた。彼の顔が青ざめたのがわかったので。

「あなたは気が付くといい」

 現状に。裏側に。手を下し続けていた事実に。

 自分のしたことが、重大であったということに。




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